家主のいない間に大量の紙類やパソコン、カメラなどを回収して、黒服の男たちは引き上げた。俺は押収される物の一部だったらしく当然のように家から出された。特に無体に扱われるわけではなかったけど、かといって大事にされるわけでもなく、荷物とともに黒いバンに乗せられた。両隣に弟と同じスーツの男が座る。
近くで見るとまったく同じではなかった。弟の着ていたのはもっと生地がいいように見えたから、もしかしたら、この男たちより立場が上なのかもしれない。そういえば寝室に入ってきた時、ただ一言で他の黒服を下がらせたことを思い出す。どんな仕事をしているのか、なんて2年逃げ続けた俺が何か言えた義理ではないが、どう見てもまともそうじゃない雰囲気とか、刈り上げられた頭とか、似合いすぎていて悲しかった。
誰も一言も話さない車内で1~2時間揺られただろうか、目隠しをされてさらに運ばれ、段ボール箱の山とともに降ろされた。
両目を覆っていたものが取り払われ、まぶしさに目を細めると、そこは会社の一室のようだった。部屋の広さに対して大きすぎる革張りの応接ソファとテーブルが真ん中に鎮座しており、人ひとり通れるか通れないかの隙間を開けて事務机が配置されている。安っぽい板張り風の壁際には、ところどころ枯れかけた観葉植物がぐだぐだ列を乱していた。反対側の壁際にそびえるのは書類棚。弟の手首に嵌められていた数珠に似た石で作られた置物が、何種類かガラス扉の向こうに並んでいる。
俺は机と書類棚の間にある扉を通って奥の部屋へ連れて行かれ、仮眠室とシャワールームになっているそこで野菜みたいに丸洗いされた。さっき弟に咥えさせられた時に、はしたなく下着に出してしまったままで気持ち悪かったから、着替えをもらえたのは助かったけれど、上下グレーのスウェットは寸足らずで頭の悪い学生みたいだった。
見ず知らずの奴に隅々まで洗われたのは恥ずかしかったし、ずっと傍についている2人の黒服がものすごく手際がよくて、こんなことは日常茶飯事なのだと思ったら余計に現在の弟の背景がほの暗く見えてしまって沈んだ。
ご丁寧に髪にドライヤーまであてられてから、応接用の部屋に戻された。
促されてソファの中央に座ると、黒服は俺の爪にマニキュアを塗り始めた。2年前にはまだ好んでつけていた、えんじと緑。
今朝まで付き合っていた男はネイルが好きじゃなかったから、しばらく塗っていなかった。久しぶりにあざやかに彩られると悪い気はしない。両手両足の爪を全て塗り終えると、乾くまで触らないよう言って黒服は部屋を出て行った。靴と靴下はそのまま持っていかれてしまった。
1人にされて、つるりと滑らかに仕上げられた爪を眺めていると、続きは仕事が終わってから、と言ったさっきの顔が思い出されて指先がざわざわした。
これを塗るよう指示したのはたぶん弟だ。
針を刺されたところにじくじくと居座る痛みを急に意識してしまって、せっかく薄れていた恐怖が戻ってくる。楽しみも哀れみも宿らないあの目で与えてくるものは、体が悦ぶかわりに頭がひどく混乱する。いっそ面白がって痛め付けてくれる方が楽だなんて、どうかしていると思う。
することがなくて交互に並ぶ紅と緑を眺めてぼうっとしていたら、静かにドアノブがまわって弟が姿を現した。わかりきっていたことなのに心臓が跳ねる。
弟は一瞬こちらを見て部屋に入ってくると、体を横向きにして狭い隙間を通り抜け、慣れた様子で財布とスマホを事務机に放った。脱いだジャケットとネクタイも丸めてその上に置いている。
なにを言っていいかわからなくて、ただその動きを目で追っていると、首元のボタンを開けながら、2年会わなかったことなどまるでなかったように弟が口を開いた。
「それ、乾いた?」
「え、あ、たぶん……。」
弟はそう、と簡単に言って引き出しを開け、ラジオペンチを手にした。
目がそれをとらえた途端に背筋にぞっと寒気が走る。そのまま無言で近づいてきた弟が中央のテーブルに静かにそれを置く。そして両手で俺の顔を強く挟んだ。手首の石が口元に当たって冷たい。
「そんな顔しないでよ。」
どんな悲惨な顔をしているんだろう。
弟のうざったそうな表情に釘付けになっているとゆっくりゆっくりその顔が寄ってきて、弟の額に俺の前髪が当たって、息がかかった。何も考えず目をつむったら、どすんと股座に重みがかけられた。腹筋が驚いて引っ込む。靴を履いたままの足がスウェットごと陰茎をつぶしていた。
「キスされると思った?こんな状況で?まともじゃないのはどっちだよ。」
ぐりぐりとそこを踏みつけられ、腹の中身が飛び出そうな吐き気に襲われる。急所を壊されてはならないという本能からか、血が集まって固くなっていくのがわかった。恥ずかしくて顔にも熱が生まれる。弟が嘲るように笑って、強く力をかけていただけの動きが変わる。
「ぅ、ん、ん、…っふ、」
靴底を強く弱くなすりつけられ、鼻から息が抜けた。痛みと代わる代わるに与えられる柔さは飛び抜けた気持ちよさだ。罰されて許されて、どうしようもない背徳感にぐんぐん追い上げられる。完全に起ちあがってスウェットに染みを作ってしまう頃には根元の後ろの方がうずき始めてしまう。
いったん止まってほしくて弟の脛あたりを両手でつかんだら、いきなり足は取り上げられ、逆に手をつかまれた。
「え?」
暴力的な負荷が急になくなって戸惑っている間に、取られた手はテーブルに縫い付けられていた。そういう時はいろんなものが不思議とスローで見える。少しでも危険を回避しようとする脳の働きなんだと思う。裏腹に体はちっとも避ける動きを取ってくれない。
出番を待っていたラジオペンチの柄を太い指が拾い上げて、すべるように手の平に収めたと思ったら、先っぽに緑色の爪がはさまれていた。
「せっかくの新しい服を汚したらダメでしょ。」
ひっぺがされる、と思ったのは過去にされた経験があるからだ。普通の人はそんなこと咄嗟に思い付かない。普通じゃない俺はそう直感したと同時に、下半身の中心が一段と存在を主張したことを自覚した。
さっき針で刺された傷口にペンチの先がめりこんですでに激痛だ。記憶の中から脳が勝手にめくれる爪の映像を掘り起こしてきて、グロテスクで思わず固く目を閉じると、弟に髪をつかまれた。
「ちゃんと見て。」
非情な声に恐る恐る目を開けると、視神経が金属にはさまれた爪を記録し始めて、脂汗が額に浮かぶ。
手首を掴んで固定し直した弟はいくよとも何とも言わなかったが、道具の柄を握る手に青い筋が浮かぶほど力を込めたのがはっきりと視界にうつった。
―――――
音はしていないはずなのに、指先から鼓膜まで神経が震えて、はがされる音がばりばりと激しく耳に響く。息は吸ったが声が出ない。口から吐き出せない衝撃が逆流していく。
ただただ、痛い。
押さえられた手首から先がびくびくと脈打って、5本の指が全部バラバラになるんじゃないかと思った。手を離してくれと言いたいのに、開いた口からぼとぼと涎が垂れるだけ。
緑色だったところがなくなって、隣の紅と似たような色になったやわらかい面にぷつぷつと血液が浮いてくる。目をそらしたいが見開いた瞼も眼球も動かない。丸く膨れた赤に見入っているうち視界に赤と黒が点いたり消えたりして音が聞こえなくなった。
初めておかしなことになったのは高校3年生の時だった。俺はもともと男に抱かれるのが好きだったけど最初からそんなにハードなのを求めていたわけじゃない。
夏休みにあんまりよくない友だちに紹介された男と付き合ったら、そいつが首を絞めながらセックスする奴だった。あんまり怖くて泣きながら締められてたら、空気がなくなって生きていることから投げ出される感覚に脳みそが蕩けてはまってしまった。あんまり夢中になってしょっちゅうそんなことをやっていたら、夏休みが終わる日に弟にばれた。もしかしたら最初からばれていたのかもしれない。派手な締め跡が消えなくて、9月からどうやって隠そうなんて馬鹿なことしか考えていなかった俺はへらへら笑いながら「どうやって学校行ったらいいと思う?」なんて弟に言った。
そうしたら思い切り引き倒されてボコボコに殴られた。痛くて勃ってしまって心底軽蔑した目で見られて、そしてめちゃくちゃに抱かれた。3回ぐらい出して、なのに弟は一度もいってなくて、もう出ないって泣いたら中指の爪を剥がれた。あんまり痛くて、全身の神経が剥き出しになって灼かれたようになって、腹の中が痙攣してやっと弟が終わってくれた。
ぐちゃぐちゃのままへばる俺を見下ろして、兄さん痛いの大好きな変態だね、と弟が言ったら、それで付き合ってた男の顔は一瞬で忘れてしまった。
しれっとした顔で爪のない指を手当てする弟はなにひとつ悪びれていなくて、かといって楽しそうなわけでもなかった。それ以来与えられるようになった痛みや苦痛はものすごく気持ちがよくて。でも単純にそういう行為が好きなのか、それとも他に目論見があるのか、まったくわからなかった。日々ぞろりと少しずつ不格好に生えてくる新しい爪を見ていると、今までと違う生き物に作り変えられていく気がして恐くなって、いてもたってもいられず、逃げ出した。
まだ学生だったから、逃げるといっても友人やその日その日で出会った誰かの家を渡り歩くだけで、2ヶ月くらいで簡単に見つかって連れ帰られた。
大学は弟と物理的に離れられるから遠くを選んだ。でも離れてしまうと俺は支柱を失ったつる植物みたいになってまた首を締めてくれる男を探してしまった。こんなの変だから、とにかく普通の恋人ごっこがしたかったのに、いつもすぐに見抜かれてしまって、そういうのを嬲るのが好きな男しか寄ってこなかった。
酷くされると相手を受け止めてあげられた気がして嬉しくなって、それでペットみたいにそういう奴に定着した頃、だいたいいつも弟が見つけに来た。
連れ戻されるとまた痛めつけられながら悦がる日々に漬けられる。でも弟のことは受け止めてあげられたなんて思えたことは一度もない。
ずっとその繰り返し。
俺が逃げるのがだんだん上手になって、2か月だった逃亡期間が3か月、半年、と伸びていって、2年も見つからなかったのは初めてだった。
「汚したらダメって言ったのに。」
咎める声で現実に戻される。その目線を追うと、スウェットの股部分がべったり濡れていた。それなのに膨らみはそのままで、まだ周りの生地を思い切り引っ張っている。
「どうしようもないちんこだな。」
耳元で言われてどぷりと涙が浮かぶ。
そう、一番まともじゃないのは自分だ。
堰をきったようにぼろぼろと涙がこぼれる。痛いのと情けないのと、なのに体が疼くのと、全部ぐちゃぐちゃでおかしくて、目の前の弟にすがり付いてしまいたい。
「泣いてどうすんの。こんなに見つけてほしいくせに、見つかりにくいように隠れるってマジでうざいよ。」
呆れてため息をついた弟に滲んだ視線を向けたら、ペンチの先に挟んだままの、血の付いた鱗のようなそれを、べろりと舐めていた。
「ほんと、クズで綺麗。」
本当は知っている。なにより恐くてなにより欲しいものはこの、俺を蔑む目。最初に生死の間でセックスした時から、弟にしてほしかった。なのに望んだ以上のものを与え続けられると、新しい爪と一緒に罪悪感が育って逃げてしまう。いつもいつも。
「馬鹿な兄さん。とりあえず、さっきの続きしようか。」
指さされたそこは、まったく萎む気配がなくて。ぼとりと落ちた涙が爪のあったところに一瞬広がって、沁みて痛かった。
ソファに座った弟に促され、床に膝をついて下半身に手をかけると、わずかに膨らんでいるだけだった。こんなに痛いのに期待であふれて涎をこぼしている自分のものとの温度差に落ち込む。
「興奮してると思った?ほら、ちゃんと起てないとできない。」
そろそろと前をくつろげ、ぬるい熱を持ち頭をもたげているのを取り出して舌を添わせ、つるんと口に入れる。唇で歯を覆って吸い込むようにすると質感が変わり始めた。少しずつ硬さを増してくるのを舌と口蓋で挟んで出し入れする。
「挿れてほしいなら後ろもして。」
せっかく履かせてもらったのにまた汚してしまったスウェットと下着をおろされ、尻を出される。いきなり水気のあるものがかけられて、驚いて口を離して見たら、雑にローションを垂らされていた。
爪がそろっている方の手を伸ばして後孔に指を入れる。さっき洗われたからか、楽に2本入ってしまって恥ずかしい。自分で自分の中身を触りながら弟のものに再度しゃぶりつく。先ほどより幾分重みが増していて、顔を見上げると冷たい視線と目が合ってたまらないと思った。調子に乗って3本目の指を入れてしまう。
「失礼しまーす!」
ガチャリとノックもなしに大きな音を立てて扉が開き、事務服の女の子が入ってきた。驚いて頭を上げようとしたが、それは弟の手で阻まれる。横目で見えたのは落ち着いた色の長いウェーブの後れ毛とピンクのリップグロス、丸くて大きめのメガネの下半分。
喉奥まで届く大きさになった弟のものを根本まで含み、膝まで服を下ろして丸出しの尻穴に指を突っ込んでいる姿があのメガネの上半分にうつっているんだろう。どっと汗が吹き出す。弟は止まるなとつかんだ頭を揺さぶってきた。
「はい宇髄さん、これ書類。置きますね。」
事務員の子は特に気にした風でもなく、弟がそうしたように体の向きを横にして、丸く張り出した尻を左右に振りながら机の前まで行って、封筒を置いた。
一定のリズムで押されるのに合わせて自分の口の中から乱れた音がするのが恥ずかしい。後ろに入れた指が止まってしまっていたから腕をはたかれた。用が済んだなら早く出てってほしい。集中して意識から追い出そうとしたのに、その子はソファ横を通り抜けずに弟と俺の横で立ち止まった。緊張して思わず尻の穴がぎゅうと締まる。
「いいなぁ~。宇髄さん私もぉ。」
甘えた声で弟に寄って、そいつは四つん這いになっている俺の首に跨がった。人ひとり分の体重で押されて弟のものが喉の奥にはまり込む。急に咽頭まで押し入られて胃の方から逆流しそうになるが出口がない。口の中だけで嘔吐く感覚が繰り返し襲ってくる。
頭の上では女が弟と深く唇を合わせていた。舌を絡ませる音が降ってきて惨めなことこの上ない。女の鼻からわざとらしく艶っぽい息が漏れる。弟も拒む様子はなく、その口に唾液をやっているらしい。時折、女の喉が鳴る。俺の首を固定している柔らかい尻肉の間がだんだんあったかくなってきて、こすりつけるように前後に動き出す。気持ち悪くてたまらなくて、ますます吐いてしまいたい。
「今日はダメ。また今度ね。」
弟が低い声でぼそりと優しく囁くとようやく女が下りた。とっさに顔をあげて呼吸すると吸うのも吐くのも喉で引っ掛かって、咳と一緒に涎と胃液が混ざって出た。女は俺を見てにっこり笑って、捲り上がっていたスカートを直して出て行った。
肩で息をしながら弟を睨む。
「怒ってるの?キモいよ。」
弟は口のまわりをぐいと手の甲で拭って、それを俺のスウェットでごしごし拭いた。
「今度あいつも入れてやってみる?なかなか強烈だよ、兄さんと相性いいんじゃない。」
背中にすりつけられた肉の感触が消えなくて、振り払うように左右に首を振った。
弟はつまらなさそうな顔をして、「乗って。」と膝の上を指した。
体を伸ばして弟の上にまたがる。さっきまで喉を圧迫していたものを握ると熱く固くなっていた。ほしかったものが与えられるという喜びがじわじわと体に広がる。唾がわいてきてごくりと飲み込んだ。
痛みのない方の手で屹立の先を支え、腰を上げてゆっくりあてがう。後ろの口が嬉しそうにぱくりと開いて吸い付いたのがわかった。乞うように弟の顔を見たら「いいよ。」と言ってくれた。
はじめの違和感を逃すために短く息を吐きながら体重をかける。局部に弟の視線が注がれている。見られていると思うと力が入ってしまってあわてて息をまた吐いた。大粒の汗が次から次へと背中を伝う。俺はこんなにどろどろなのに、弟の顔は涼しい。
ずる、と頭から首までを飲み込んで、いっぱいに引き伸ばされた口が苦しそうに、満足そうに小さく震える。膝が笑いそうになるのを耐えて、奥に進めるため角度を確かめる。
自分で体を落とそうとしたのより一拍早く、弟が服の上から的確に左の乳首をつねった。
「…っぃああぁっ!」
脊髄に電気が走って膝が屈した。想定していたよりも奥まで一気に入って、弾みで押し出されるように自分の鈴口から精液が噴き出た。急な絶頂に体がついていかず、太ももがぶるぶる痙攣する。
「あのカレシとどれだけぬるいことしてたの、ガバガバじゃん。」
鼻で笑った弟が腰をつかんで前後左右に揺さぶった。早朝から激しくセックスしたばかりだったから確かにゆるんでいるのかもしれない。いったばかりでびくびくと蠢く腹の中で、怒張が前へ後ろへあたってだらしない声が出る。
「あぁっ…!ぐ、ぅあっ…ん、あー…っ!」
気持ちよさにのまれそうになっていると、弟がペンチに手を伸ばしたのがちらりと見えて寒気がした。
「あー、ちょっと締まった。久しぶりだから一枚にしてあげようと思ってたんだけど、やっぱりもう一枚剥いどく?」
「やめ……ひっあ!た、のむ、からぁっ……。」
「じゃ気合い入れて締めて。」
平手で尻たぶをたたかれ、腹に力を入れるが、いきり立ったものが奥の行き止まりをぐりぐり押してきてすぐに力が抜けてしまう。
「優しい弟でよかったね。」
揺らされながら精一杯何度もうなずく。そのたびに汗と涙と鼻水が弟の胸元に散る。そんなことでは許されず、顔をしかめた弟の親指が下腹部に触った。ぐ、とめり込みそうな力で押される。
「か、はっ……!!」
「ちゃんと口で言って。」
「や、やぁ……優しく…って、くれ…てあ、りが、と…!」
親指と、中で暴れる弟のもので膀胱と前立腺をはさまれたようになって、引くぐらい気持ちよかった。
「どういたしまして。」
たいして嬉しくもなさそうに言って、弟はさっき爪を剥いだ方の手を捕まえ、その、爪がなくなったあとの剥き出しの肉をぱくりと食べてじゅうと吸った。
「あぁあー……っ!!」
びりびりと指先が痛む。視界がびかびかして、内臓が引き絞れる。つられて腹の中も締まると、弟の凶暴な陰茎がひとまわり大きく膨らんだ。
「優しくされたらお返ししないとね、兄さん。」
でないとイケないんだけど、とまた尻を叩かれ、すくみあがってしまった足の筋肉に動けと命じる。内臓はものすごく熱くなっているのに足先は冷えていて、まるで違う人間のものみたいで言うことを聞かない。下から突き上げられるのに合わせて必死で体を持ち上げるが自分の大きな体が恨めしい。
「ごめ、もっ……くび、しめて…」
姿勢を保てず弟によりかかってしまう。首を絞めてもらえたら中も締まる。そう懇願したらするすると首を撫でられたがすぐに離されてしまった。
「これが消えるまで締めない。」
ああ思い出した。朝あの男としたときに散々絞められたから、たぶんくっきり跡がついている。絶望的な気持ちになってぼろぼろ涙がこぼれた。こんなに自分勝手に逃げ回っておいて、都合よく締めてなんて頭がおかしいとしか思えない。
すがるように後ろ頭に回した手に短い髪が刺さる。申し訳なくなってもう一度大腿に力を入れて腰を立てる。
「健気にしてみせなくていいよ。萎える。」
ぐい、と下半身の角度を変えられるといいところにあたってまた体がぐらついた。
閉じなくなった口に弟が指を三本まとめて突っ込んできて、舌の上をなぞって、さらにその奥を直に触る。数珠が唇に押し付けられて痛い。強烈な嘔吐感に我慢ができず、ごぼりと喉をいためつける体液があがってくる。
「お゛ぇっ…!!お、あ゛っっ!ぐ…!」
「ああ、これならいいんじゃない?」
がんばって、と言ってまたそこを撫でるから鳩尾がひきつった。
留めるものがなにもなくて、弟の手を汚しながらびしゃと胃液がこぼれる。食道が灼けて痛い。饐えた匂いが鼻腔に入るとまた刺激になって嘔気がこみ上げる。
苦しくて働かない頭の隅で考えたら、丸一日何も食べていないから中身は空っぽだ。おかげでかまわずまた吐いた。
ぎちぎちと音が聞こえそうなくらい後ろが締まって、弟の形がはっきりと感じられる。こんな、体の中を空っぽにされて、下から弟に満たされる。痛くて苦しくてしあわせだと思った。
「俺がしてあげないとダメでしょ、兄さんは。」
「う、ん゛っーっっえ゛っ…!!」
全部見透かされている。でもうなずけないから一生懸命胃液を出した。臭くて汚くて弟には悪いけど、もうなんでもいい。
「いいよ。イけそう。」
ぐるんと視界がまわってソファに倒された。弟が足を持ち上げて折り畳み、上から突き刺すように入ってくる。
「ん゛ーっ…ぅ、ぐ、う、う゛っっ…!!」
中が悦んでびくびくまとわりつく。もう一度喉の中をこすられて、頭と腹が同じ高さになっていたから簡単にごぼりと吐き出す。何回もされたからか嘔吐感を追いかけて気持ちよさがぐるぐると渦巻きながらのぼってきて、内臓が全部ぎゅうぎゅうに捻れて弟のものが動けなくなるくくらい捕まえて。腹の奥に熱いものが叩きつけられて心底安心した。
最後は顔を横に向けていたから吐しゃ物は床に落ちていて、革のソファを汚さなくてすんだなんて、どうでもいいことを考えながら意識が薄くなっていく。弟のものが出て行って中が寂しいけどもう体は重く沈んで動きそうもない。
石のぶつかる音がじゃりと聞こえて目だけやったら、弟が俺の足先の色を舐めながら次は足にしようね、と言って、足は歩きにくくなるから勘弁してほしいと思った。
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