買い物帰り、どうしても通らねばならない道を占拠するように人だかりができていた。無視して通りすぎようとしたら、真ん中に、まわりの人よりひとつ分もふたつ分も飛び出た頭が見覚えのある銀色で、仕方なく足を止める。
歓声と拍手につつまれた大柄な男が、何も身につけていない上半身の筋肉を惜しげもなく隆起させて、タイヤが歪に潰れた自動車の前半分を、なんの助けもなく腕2本だけで持ち上げていた。
頭が痛くなって目を閉じる。あれだけ目立つなと言ったのに。
ちらりと下半身に目をやると一応デニムは履いていた。前に同じような状況で人目を集めていた時のように、脱いではいないことにほっとしたが、ずれたウエストから虎柄のパンツがのぞいていて、思わず頭を抱える。
車の持ち主は道路と車体の間にできたゆとりある空間に悠々とジャッキをかませ、パンクしたタイヤの交換に取りかかったようだった。
お礼を言われながらにこにことまわりの人を追い払って、俺のところに寄ってきたそれは「鬼」というものらしい。見た目は人間より少し大きいくらいで、つくりはそう変わらないが、とにかく力が強い。3ヶ月前初めてうちに来た日には、エアコンのリモコンを一握りしただけで破壊された。
険しい表情に気づいたのか、銀髪の鬼は急に肩を落としてしょんぽりする。
「ごめん、勝手にうろうろして。」
ちょうどぐっすり昼寝をしていたからと何も言わずに出てきてしまった自分にも非はあるのだが。
「うん。約束破ったね。」
低くそう言うとますます眉が下がって悲しそうな顔になった。
その横へ慰めるように、ひらひらと蝶だか蛾だかが舞ってきて、顔の前を2往復する。しかし空気を裂く速さで伸びてきた手にむんずと捕まれ、虫はぱくりと口に入れられてしまった。
むしゃむしゃと咀嚼する様子におさまりかけていた怒りがぶり返す。
「あ!ごめ、人のいるところで食べちまった!」
「目立つからやめてって言ったよね。とりあえず服着て。」
帰ったらお仕置き。
聞こえるか聞こえないかくらいの呟きに、大きな喉仏がぐいと動くのが見えた。
この鬼は、鬼としての実績を十分に積んだからもうすぐ人間に生まれ変われるのだといった。では実績とはなにかと聞くと、地獄に落ちてきた人間を順路通りに罰へ案内したり、逃れようとする人間を連れ戻して正しく苦しめることだそうだ。
それを全うしたから人間になれるというのはなんとも皮肉なものだと思う。
そしてまた、今は人間として輪廻に乗るまでのお試し期間のようなもので現世を訪れており、この間に徳を積むとよいらしい。
「神様がそう言ってここにおろしてくれたんだぜ。」
と嬉しそうな顔で教えてくれたが、昨日までしてきたこととまったく逆のことをやれと言われていることには矛盾を感じないのだろうか。とんだ神様もいたものだ。
ちなみに何故うちに来たのかというと、俺の顔がその神様とやらに似ていたからだそうだ。迷惑なことこの上ない。
その神様が日常的にしていたとかいうお仕置きがある。
「…ほんとにやんの?」
恥ずかしそうに潤んだ目で見下ろしてきても許すつもりはない。さっきのアレは徳を積むキャンペーンの一環で、困っている人を助けた、ということ自体は認めてやらなくもない。
だがその前に、『許可なく家を出ない』という約束を破ってしまっているし、むやみに目立たない、という注意も聞き入れられていない。
無言を返事のかわりにすると意図は伝わったようで、デニムを脱ぎ捨てる。虎柄の特徴的な下着は足首にひっかけたまま。人間に本当に嫌なことをされそうになったとき、すぐに履けるようにとこれも神様の助言らしい。実際にそんなことを心配しているというよりは、単に神様の好みというだけではないかと勝手に思っているが。
途端にしゅう……と縮んでいく体。
この鬼はこのパンツを履いていないと子どものような姿かたちになる。人間のところにくるにあたり、あの怪力が常時備わったままでは困るのでどうやら下着で制御されることになったらしい。他の下着を履いても力は出ない。金棒とか、他のなにか鬼らしい道具とか、そういうのをすっとばしてパンツ、というところがなかなか神様の変態ぶりをうかがわせる。
「神様にするみたいにして。」
俺が椅子に掛けると、10歳ほどの大きさになった鬼は膝の上にうつ伏せになって乗った。ちょうど右手で叩けるところに尻が位置する。
悪いことをすると神様がこうやって、いわゆるお尻ぺんぺんをしていたらしい。いったい何の神様なのか。そんな胡散臭いものを信用して人間に生まれ変われるなどと心の底から楽しみにしているのが浅はかだ。
人間ではないものが自分の言うことを聞く、という非日常感にだいぶ自分も頭がおかしくなっているが、選んでうちに来た以上、この鬼が無事に輪廻の輪に乗れるよう協力しているのだと言い訳して、右手を打ち下ろした。
「ひゃんっ!」
体が小さくなったぶん高くなった声が上ずる。続けざまに3発平手で打つと、さっきまでの力強い背中と違って発達途中のしなやかな背中がびくびくと震えた。
「っあ!うひゃっ!ひん!」
「これ本当にお仕置きなの?喜んでない?」
「よろこんで…ないぃ…。」
言う口からは涎が垂れている。右の太ももに熱を感じる。股のものが勃起し始めているようだ。
「じゃあどうするの、これ?」
そこに手を入れて体相応の陰茎を握ってやると真っ赤な顔をして口を押さえた。
そのまま手の平の皺で皮を挟むようにして何度か擦る。尻を叩かれるときには簡単にあげる声をなぜ我慢するのか、基準がよくわからない。
「ふっ……う、んん…」
ゆらゆらと誘うように揺れる腰が憎たらしくなって、また腕を振る。
甘い刺激から急にばちんと衝撃を与えられて鬼がのけ反った。後ろ脚がぴょんと上がってひっかかったままの下着が揺れる。
「ひやあっ!」
「ちゃんと人間になれるように、まず約束は守ろうね。」
言いながらまた皮膚に打ち付けて派手な音を立てる。そろそろ言葉が耳に入っていない。すっかり力の抜けた体は膝の上で重さを増し、跳ねる様は白い魚だ。
何度も打つうちに白い丸みが真っ赤に腫れて、本当に桃のようにも見えてくる。白と赤のバランスがちょうどよくなってきたところで、耳元に口を寄せた。
「がんばったから、痛いことはおしまい。あとはどうする?」
ここ3か月ですっかり飴と鞭の味を占めてしまった鬼は、囁くだけであっという間に堕ちる。
「に、にんげんの、きもちこと…して…。」
「いいの?神様見てるかも。」
「いい…。」
覚えてしまったことへの期待ばかりが頭の中を埋め尽くしているのだろう。とろんと溶けた赤い瞳。小さくなってしまった体をごろりと床に転がして、その足首からふさふさと毛の長い生地のパンツを抜き去る。何も言わないということは、嫌がられてはいないということ。
目じりに浮かんだ涙を指で掬ってやりながら、ほどよく熟れた桃を開く。
こんなことをしていてちゃんと人間に生まれ変われるのか知ったことではないが、こんな淫らな鬼を育て上げた神様とやらの顔は、拝めるものなら拝んでみたいものだ。
どこまで仕込まれているのか想像して、手酷くしてしまいたくなる衝動をおさえながら、慎重に小さな割れ目に猛ったものをねじ込んだ。
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