1日の講義がすべて終わって、指定された駅で待っているところだった。タイミング悪く同じ学科の先輩と出くわした。だから駅なんかで待ち合わせするのは嫌だったのだが、指定してきたのは妹の方だったから仕方ない。俺にはいつも拒否権なんかない。
明るい色の、いい香りがするおだやかなウェーブが腕をくすぐる。さりげなく絡められた腕と、おだやかな表情で親しげに話す姿はまわりから見たら親密な関係に見えるだろう。相手も同じことを思っているに違いない。満足そうな顔で次から次へと話題を振ってくる。学内でなら、そうやって俺と仲がよさそうな雰囲気を周囲にひけらかすのが好きなこの女の演出に、いくらか付き合ってあげられるんだけど。
明日から休みに入ることだしご飯でも行こうと誘われるのを歯切れ悪く流しながら、ちらりと時計を見る。まずい、と思った時には、ちょうど着いた電車を降りた人の波が、勢いよく階段から流れ落ちてくるところだった。
「すみません、人を待ってて。」
あわてて言ったが先輩は引かなかった。入学式のすぐあとから色々世話をしてくれているこの人は、浅く広く友人の多い俺に、長く特定の相手はいないことを知っている。待ち人が学友ならまとめて連れようと思ったのだろう、少々強引に手をひっぱってきた。
突如どすん、と背中に衝撃を受けて前につんのめる。腰にぎゅっと何か巻きついたのがわかって血の気が引いた。恐る恐る振り返ると、背中にひっついていたのはやはり妹だった。
「おにーちゃん。待たせてごめんね?」
上目遣いで思ってもないセリフを口にすると、俺の手を取っている女に向かって笑顔を向けた。
「お友だちですか?」
びっくりした顔の先輩が妹をじろじろ見る。学外の付き合いごとをことごとく避けている俺に妹がいることを知っている者はほとんどいない。
「宇髄くんの……?」
妹が姿勢を正した。
「妹です。兄がいつもお世話になっています。」
すっきりしたうなじを惜しげもなくさらした短い黒髪に、この辺りの者なら誰でもわかる超進学校の制服。俺と同じ赤い目でにこりと笑って少し内股で立つ姿は、凄まじい存在感だ。ご丁寧に、俺の服の裾をちょんとつまむことも忘れていない。
完璧な妹の皮をかぶった姿に寒気がした。つままれた裾は腰骨の下あたり、ちょうど、絶えず傷がついているところ。そのまわりを触られるのが弱いこともわかってやっているに違いなかった。
先輩がひるんで俺の手を離す。
「あぁ、妹さんと待ち合わせだったの…。」
「そうなんです。そういうわけで、今日はすみません。」
軽く頭をさげると、とても残念そうな顔をしてまた休み明けにね、とその場を離れてくれた。
大きなため息が出る。妹ははりつけた笑顔をあっという間にはがして、俺を見上げた。
「兄さん、あんな友だちいんの?」
「や、先輩…。世話になってる人だからあしらうわけにいかなくて…。」
「ふうーん。」
氷のような視線が刺さる。いたたまれなくて目をそらすと、妹が「あ」と声をあげた。
くるりと後ろを振り返り、小走りで駆ける。3メートルほど離れたところに妹と同じ制服の男子がこちらを凝視して立っていた。妹は彼に駆け寄ると、耳元でこそこそと何かささやく。男子生徒の顔がみるみるうちに耳まで赤くなって、妹はその耳に軽くキスした。
どすんと、さっきとは全然違う重い衝撃がみぞおちあたりを襲う。
なんだあれ。
妹が見せる年相応の女子らしい顔が自分でない者に向いていることにひどく落胆している自分がいた。いやいや、妹の成長ぶりが寂しいからだと思い込むことにして、正気に返れと頭を振った。
男子生徒はこちらをちらと見て軽く頭を下げ、反対側へ向いて去って行った。時々振り返り、小さく手を振るのに応えて、妹が手を振り返していた。
「えー……誰あれ。」
「彼氏。」
「えええええっ。彼氏いるのかよ!?」
「いるよ。」
驚きすぎてそれ以上言葉が出てこない。うそだろ、と口の中でつぶやいていたら、細い指が俺のに絡まって、行こ、と引っ張られるままに歩き始めた。
歩くのに合わせて左右に揺れるつむじを見ながら後を歩く。背丈も肩幅も小さく、スカートから伸びる足もすらりと細い。歩幅も全然合わないから俺は時々足がもつれて転げそうになる。つながれた手は折れそうなほど華奢で、強く握り返すことができない。
連れて行かれた先はアダルトグッズのショップだった。
「行きたいとこあるって…ここ?」
「うん。こんなとこ女子高生が一人で入ったら危ないでしょ。」
ちらりと頭をかすめたのはさっき耳を真っ赤にしていた男子高校生。
「ええええ…。あの彼氏あんな普通の顔してやばい奴なの?」
「やばい奴なのは兄さんでしょ。」
「俺ぇ…?」
自覚はある。妹とろくでもない関係であることに罪悪感もある。それでもあの初々しい男子高生よりも自分の方がやばい奴だと認識されていることに安堵してしまう。
妹が産まれた時、2歳だった俺はまだ拙いしゃべりでこれは弟だと言い張ったらしい。今となっては家族や親戚の笑い話だ。
この生が始まる前は兄弟だった。
兄と妹で産み落とされたのはなんの因果かわからないが、お兄ちゃんお兄ちゃんと後をついてくる姿はとても愛おしかった。
大事にしよう、今度はちゃんと守ろう、そう思っていたのに、今回もどこで踏み間違えたのかわからない。前の時は生業のせいで倫理観なぞ微塵もなかったし、訓練の延長のようなものだと言い訳できた。でも今は違う。
もしかしたら前世で置き去りにしたことを罰してほしかったのかもしれない。そんな自分勝手な思いはすぐにバレたし、その時初めて、こいつも全部覚えていることを知った。
妹はずんずんと俺の手を引いて男性器を模した物が並ぶコーナーへ足を進めた。
「そろそろサイズアップしようと思って。兄さん、物足りなそうだから。」
えらんで、と長いまつ毛の間から赤い目が舐めるように見上げてくる。それだけで心臓が打つリズムが早くなって、血液が勢いよく全身を巡った。
さっき掴んだ裾のあたりに手を滑らせ、デニムの上から傷のあるところをなでてくる。反対側の手でジッパーの上を擦り上げられ、驚いて声が出てしまった。
「おあっ…やめろ、こんなとこで…っ。」
「こんなところだからいいんじゃないの?女子高生に股擦られて勃起させちゃうの?兄さん。」
「あっ…ごめ、ほ、んとっ…やっめ、」
そこに熱が集中して前かがみになってしまう。はたから見たら女子高生に抱きついている変態だ。選んでと言っておいてちっとも選択権を与えてくれないのはいつものこと。
俺たちがそんなことをしている通路の端を、猫背の小汚い男が舌打ちしながら横切って行った。
「これにするね。」
器用に片手で見もせずに妹が取った張り型は確かに今使っているものより太さも長さも一回りあるように見えた。
身震いした俺に商品を持たせ、妹が手を離してレジへと促す。途中通りがかった棚からもう二つラブグッズを取って渡してきた。
いわゆる、男性が疑似挿入する筒形の道具。
「は?え…?」
「兄さんたまにはこっちも使いたいかと思って。」
せっかく離されたそこを再び押されてびく、と跳ねてしまった。
「お前が挿れさしてくれたらいーんじゃないの。」
口を尖らせると一気に妹の顔が不機嫌に歪む。
「兄妹でしょ何言ってんの。だいたいこの慎ましやかな股にそんなバカみたいなの入るわけない。マジでさいあく。小さくしてから出直して。」
「バカって…そんな…。ごめん…。」
矢継ぎ早に言われて謝るしかできず、素直に受け取った。
なんで二個も買うの、とさらに余計なことを聞いたら、内緒、と言われてまた落ち込んだ。
帰宅後早々に風呂を終えて、ベッドに転がり込んだ。明日から連休だというのに家の中はいつもと変わらず俺たちだけで、でもそれが妙にしっくりくるし、バレることを気にしなくてよくて楽だった。
準備や前戯を妹にしてもらうのは申し訳ないので、シャワーの時にだいたい自分で全部やっておく。
ちゃんとできているかだけ細い指を二本入れて確かめられて、あとはほぼ挿入だけ。キスもしない、妹は下着を取らないし、素肌を触らせてはくれない。これをセックスというのかなんというのか、まだ知らない。
かちりと妹がベルトを留める。その音だけで尻の穴が中を埋めてくれるものを欲しがってぱくぱくと口を開けた。取り外しができるようになっている陰茎部分を、さっき購入したものに付け替えて、妹はこちらを向いた。
「今日どっち?正面?うしろ?」
可愛い顔に凶悪なものを装着して楽しそうだ。涎を垂らしながら正面、と告げると細い腕で肩を軽く押されてシーツに沈んだ。
「足上げて。」
俺の重い足は妹では持ち上がらないから自分で担ぐ。
恥ずかしい所を全部見せた格好で小さくちょうだい、と呟けば、ひやりとした硬いシリコンが押し付けられた。
これが熱を持っていたらどれだけいいか。この瞬間いつも絶望に打ちのめされる。これは作り物だ。
いくよ、と妹が腰を進めてくる。ぐりっと遠慮なく狭い入口を広げながら血の通わない太いものが入ってきて、背中が反った。見た目はほんの少しの差だったのに、実際に入ってくると圧迫感がいつもの何倍も感じられて息が詰まる。
息吐いて、と腰骨を掴んだ妹は止まることなく奥へと侵入してきた。
「あぁあ゛ーーー…っ!」
ただ引っ付けているだけのはずなのに、妹は的確な角度と速度で弱いところを突いてくる。肉ではないそれは中の形に合わせてはくれないので自分の肉壁をそれに合わせるしかない。
ごりごりと音がしそうな大きさでこじ開けられて、自分の体温でシリコンがあたためられていく。
妹が疲れてしまう前に終わらせなくてはいけないから、早く悦くなれるよう腰を押し付け、神経をそこに集中させた。
「んんん…っ!…っ!やぁ、…っはぁーッ……っ」
渦を巻く気持ちよさに体も頭も支配される。
すがりつくものが欲しくて、妹の体に腕を伸ばし、あまりの細さに我に返って手を離す。
記憶の中の俺はいつも弟の広い背中に腕をまわして思い切り爪を立てていた。目の前の妹に同じことをやると、きっとつぶしてしまう。
泣きそうになって自分の腰骨に爪を立てた。まだ治りきっていない傷跡のざらりとした感触を無視して新しい線を刻む。
「あああっ…!
「そんなに爪立てたら痛いでしょ。」
じわじわと血がにじんできたところを舐められて、唾液が傷口に沁みてじんじんするのも全部悦楽に変換されてしまう。
「だっ…て…お前に傷つけた、く、な……っ。」
「兄さん優しいね。そうだね、こんな柔らかい肌に兄さんが思い切り爪を立てたら、破れて肉が出ちゃうかもね。」
「ひぐっ…うあ、んッ、あっ、あんっ…」
妹の白い背中を俺の爪が破って白いあばら骨が見え、そこからどろりと肉や臓物がこぼれ出る様を想像してしまって今度こそ涙が出た。
「だめっ…んああ…っ…」
「そうだね、兄さんもあんまり引っ掻くと痛いから、そろそろイこっか。」
天使みたいな顔で笑って、枕元に投げていた、女の密壺を模した玩具を俺の陰茎に勢いよくかぶせた。
にゅるりと生暖かい物に包まれて暴力的なほどの気持ちよさに襲われる。腹の中の物よりよっぽどリアルで、弟の前ではほとんど雌のようにされているのにかくんかくんと腰が動いた。
「ほら自分で持って。」
片方の手を道具に添えさせられて、ほとんど本能で上下させてしまう。
後ろも前も人工物で犯されて、冷たくて悲しくて欲望と一緒に絶望も全部出してしまいたくて妹の目を見た。
「弟じゃなくてごめんね?」
くるりと表情をなくした妹は何よりも恐ろしくて、強く抱きしめたいのに壊してしまいそうで、手も足も出なかった。わかっている、この勝手な絶望は、妹の存在を根底から否定するものだと。
今世でも同じところに生まれてきてくれてありがとうと、祝ってやれない自分は兄にはなれない。苦しくて苦しくて腰骨の皮膚を破っていた爪を一段と強く食い込ませた。
まだ休前日の夜からこんなで、連休の間どうなってしまうのかと思いながら、決して孕むことのない温かみのある玩具の中に粘い体液を思い切り吐き出した。
弟が妹ターンが再燃してまた読みに来ている…最高だな〜最高だな〜
ありがとうござます♡(うよ)