弟宇ログ - 2/6

日ごろの行いはそんなに悪くない方だと思う。
それなのに、雪のちらつく聖夜、俺のところに来るのは、子どもたちが羨望のまなざしで今か今かと訪れを待つ、白い髭をたくわえた爺さんではない。目の前のこいつは、悪魔か死神か。

見事に割れた腹筋も、拳を振るうときに隆起する上腕二頭筋も惜しげなくさらした身体は、乳首と股間だけがわずかな白いファーに囲われた卑猥な柄の布で申し訳程度に隠されている。
なんていうんだっけ、こういうの。そうだ、マイクロビキニってやつ。夏に遊んだ、アッシュブラウンの耳裏に赤いインナーカラーを入れていた会社員のお姉さんを思い出しかけて、目の前のボディのインパクトに負けた。惨敗だ。あのやわらかな膨らみの頂だけを隠していた布が何色だったか思い出せない。

「着たよ」

色も乗ってない艶やかでもない口から投げられた言葉に、寝起きの頭が反応しない。ひどく揺すられたから何かあったのかと思って、ほとんど泥の中に沈みかけていた意識を無理矢理戻してきたっていうのに。いや、何か、は起こっている。まさに今。
思い切り圧を込めて見つめてくる弟が身に着けているコスチュームは、寝る前に俺が断ったものだ。俺が着ないのなら、自分が着て寝ている俺の顔にぶっかけてやると、可愛い弟は脅しをかけてきた。
まさか本当にやるなんて思わない。

「ほら、べろ出して」

いつまでも呆けている俺をそのまま見逃してくれるほどこいつは可愛くない。顔を跨いだ弟の手が前髪をぐしゃと掴んで、布で覆われたまだやわらかな局部に俺の頭を押し付けた。ふにゃという感触に鼻が埋もれる。新品の生地のにおい、その奥に、覚えのある弟の。眉間にアンダーヘアが当たって思わず目を瞑った。

「プレゼントほしいでしょ、たっぷりあげるから兄さんがちゃんと育ててね」

ぐり、ぐり、と鼻先に布越しの竿をこすり付けられると歯の奥から唾液がわく。下生えが揺れるごとに弟のにおいが濃くなって、つい流されてしまいそうだ。まだ抵抗の意思を捨てていない理性を握りしめた。

「そんなプレゼントいらなっ、ふがっ」
「声が汚い黙って」

拒否のために開けた口は、無遠慮に突っ込まれた膨らみで塞がれた。真新しく安っぽい布が唾液を吸わず、べとりと濡れる。噛んでやろうかと思ったけど、案外厚みのある布に守られていてあまり意味をなしそうになかった。

「もう一度言うね。べろ、出して」
「んごっ」

口角に弟の親指が刺さる。引っ張られて、乾燥した唇にぴりとヒビが入った。睨み上げながら渋々舌を出すと、パンティ部分からこぼした亀頭がそこに乗せられた。なんでいちいちこういうことになるのかわからない。俺が素直にこれを着ていればよかったのか。いや、それはそれで悲惨な目に合っていた気がするから、ある意味こちらの方が正しい選択だったかもしれない。
馴染んだ形のものを啜って、唇で扱くとあっという間に質量を増す。慣れた大きさ、硬さ、滲む苦み。だんだんと口内を圧迫してくるものに歯を当てないよう気を付けながら長さも増してきた分を喉奥へと迎え入れた。鼻から弟のにおいが抜ける。ずりずりと上顎を擦られると途端に鼻の奥がじんと痺れて、それは俺の下半身の神経と接続されてしまった。勃起するだけならまだしも、後ろが勝手に締まる。最悪だ。

「兄さん、ホワイトクリスマスだよ」
「ふんんっ…ぐぅ」
「喉締めといてね」
「ぐっ、んっう」

顔の上に乗られる体勢は、相手が好きに口を使える。どれだけ深く突っ込まれようが、鼻水を垂らしながら耐えるしかない。両手で弟の大腿を押し返すものの、体重を乗せて突き入れ始めた弟の動きを阻むことはできなかった。口蓋を擦られて、本当ならケーキやシャンパンを飲み下すところまで性器で犯される。たくれた布が片頬を時折ばちんと叩いていた。俺の唾と弟の先走りにまみれたそれは冷たくて気持ちが悪い。
それでも、兄弟だからなのかパーツとパーツが嵌まるように相性が良いことを知ってしまっている身体は、はしたなく唾液を分泌し続ける。
じゅぽ、ぐじゅ、と汚い音を立てて口の横から泡立ったものが零れていっても、喉を締めることしかできなかった。
舌を幹にからませ、限界を超えて頬張る。腹立たしいけど美味しい。奥歯の内側がぐずぐずに悦んで仕方がなかった。兄ちゃんいつからこんなマゾになっちゃったんだろう。

「目、開けたままだと沁みるよ」

見下ろす目線に刺されて、溜まった涙を押し流しながらぎゅっと瞼を閉じる。ひと際奥まで入られて、くる、と嘔吐いたら、あっという間に喪失する。とっさのことで口が閉じられないまま、顔いっぱいにぶちまけられる甘苦い香り。鼻、額、頬……熱い粘りがびしゃりと叩きつけられて、口腔に垂れて流れた。

「っ…う、く…」

鼻の穴についたものを吸い込まないように、弟の大きさに開いたままの口で酸素を取り込む。耳に流れそうなものを拭いたい。最後ににじみ出た精液を俺の下顎に擦りつけながら弟は笑った。

「メリークリスマス、兄さん」

ああ、これが俺のサンタクロースだ。
(神楽さんのイラストに捧げた小文「白い聖夜のギフト」)

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