あんな人間―弟宇―
どろどろに蕩けて涙を浮かべていても、その眼の奥から向けられているのはいつだって同じもの。
俺はお前のようにはならない。
父に対して、俺に対して、その視線で刺し続けているのを上手く隠せていると思っているのか。こうなる少し前に軽口をたたきながら頭を撫でてきた顔を思い出す。気づかれていないと思っているから、下の兄弟にするようにそういうことを平気でする。
よくもまぁ、とため息をつきたくなって、かわりに膨らみきった屹立を、激しい音を立てて口を開けた奥の臓器に押し込んだ。
息は十分にできていないし開きっぱなしの口から絶えず涎をこぼし焦点も合っていない。それでも兄は胸の底でぐつぐつと蔑みを煮えさせ続ける。
ああ今は怒っているのだろう。他の兄弟が隠して手なずけていた小さな動物を殺したから。父の命だと告げれば何も言わなかったが目の色が変わったのは明らかだった。
そのくせ簡単に体を差し出すのだから心底笑える。組み敷かれることで怒りや絶望を表現しているつもりなのかもしれないが、そうやって無意味に自分を下げることでバランスを取っているだけ。兄弟にも主従にもなれないようにしているのは他でもない兄自身だ。
奥の臓器を開いてはめ込まれるのは相当好きなようで、ぐったりと全身の力が抜けて声も出なくなって空っぽの頭で気持ちよさだけを追えるようになるらしいから、望み通りにしてやる。
挿れる俺もぴったりはまり込む感覚がものすごくいいからちょうどいい。小刻みに揺すると声か嗚咽かわからないくらい小さな音が鳴った。
俺は望まれたことを叶えることがたまたま得意だから、兄の相手をするのに向いているとは思う。情愛も独占欲もなく義務でもなく、ただただ求められるから返している。なのに兄の中では、ずれた変換がされている。大概の人間は、落とされた境遇の中で言われたことをその通りにやって流れに大きくは抗わず生きている。自分もその潮流の中の一つだと思うから、父の駒と言われてしまえばそれまでだが、それでも、いつ俺が父のようになりたいなんて言ったんだろう。
選択肢がないなんて思っているのはただの言い訳だ。
兄の実力は飛び抜けていて、父も他の里の者もそれは認めている。そんなに現行のやり方に異論があるなら、もういっそ取って代わってしまえばいいのだ。
結局、宇髄の頭領にも忍の頂点にも、単に、なりたくないだけだろうに。
本当に、甘えん坊で自分勝手な人だ。
もっと前なら、俺もちゃんと弟になりたかった。生業のせいでやっていることはゆがんでしまっていても、それでも弟でありたかった。
でもだんだん自分に向けられるものに気づいてしまったから。
この大きな駄々っ子の願うままに、「なりたくない」人間の目をし続ける。
はめ込んだまましつこく同じ速さで揺さぶり続けていたら、兄がだらだらと精液を吐き続けて意識を失ってしまったから、もういいかと思って自分の陰茎を引き抜いた。身体を拭いた方がいいだろうけど、別にそれは求められていないことだから、そのままにして。
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