弟宇
喉がかわいて目が覚めた。
小さく物音がしていて外に出ると、闇にまぎれて、井戸の横で兄さんが着物の裾をたくしあげ後始末をしていた。街の方では水道も普及し始めているというのに、この山奥ではまだこんなもので水を汲まねばならない。
体が大きくなってから、父たちの兄に対する折檻が激しくなっている。手足の細かった頃は、訓練という名目もあったしあの大人たちがそういう趣向なのだと思っていた。背が伸び筋肉がついて、体つきが大人に近づいてからは、頭を押さえつけるような、力の関係を思い知らせるような行為に変わった。
なにをそんなにこの人を畏れているのだろう。
びしゃりと地面に水っぽいものが落ちる音がして、後孔に指を入れたまま、兄さんがげぇげぇと吐いた。
背中をさすってやろうと手をかけると、濡れた赤い眼がこちらを向く。
「わり、起こした…?」
「いえ。」
背中をゆっくり上下に撫でるようにすると、また吐瀉物が落ちる。汲んで置かれていた水を柄杓で差し出すと、口をゆすいで吐き出した。
「ありがとな。」
「湯を用意しますか?」
「いや、いい。」
もうそんな気分にもなれないほど疲れているようだった。冷たい水で熱を冷ましたいのかもしれない。
「ん、う、」
兄さんが後ろの指を動かすと、まだ艶の混じった声が溶け出た。手拭いをしぼって顔の汗を拭いてやる。
「ちょっと、手伝ってくれる?」
困ったような顔で笑って、兄さんは俺の方に尻を向けた。よほど辛いのだろうか。
訓練されているから夜目がきくが、明かりを持ってこなくてよかった。兄さんの秘部をこんなに間近にしたのは初めてだ。すぐに皺が伸びてしまうほどゆるんでいるそこは、時折ぱく、と口を開けては閉じているのが暗くても見えた。腫れている。かすかに血のにおい。
「気持ち悪かったら、いいから。」
動けないでいると、再び自分でやろうとしたからそれは制した。
口に指を2本あてがうとにゅるりと入っていく。中はまだ粘こい体液で満たされている。奥まで入れると容赦のない生々しい音。こすり取るようにゆっくり、壁に沿って指をまわしながら抜いた。
「ふっ、ん、ふ、あ…」
声を我慢しないのは、その方が楽だし、力が抜けて早く終わらせられるから。
指にまとわりついて出てきたものは妄執だ。手を振って地に落とし、残ったものは拭く。どれだけ出されたのか、まだ孔の中からこぷりと音がした。
父たちの顔が浮かんで苛々する。
もう一度入れて、熱くて溶けそうにぬめる中を進める。力が入って、途中で内壁の膨らみをひっかけるように押さえてしまった。
「ああん」
兄さんの背中が反る。思わず指を抜こうとしたら手首をつかまれた。
「いいから。触って。」
さっきより眼の赤が蕩けている。ごくりと喉が鳴った。
少し指を曲げて、掻き出すようにしながら、わざとそこに当たるように撫でる。
「あ、あっ、うぅ」
液状の欲がどろりこぼれ出るのに合わせて兄さんの口から惜しげもなく艶が吐き出された。冷えかかっていた身体がまた熱を上げている。ずしりと下半身が重くなる。
深い夜がおかしな空気を連れてきている。このまわりだけ切り取られて閉じ込められたようだ。
指を増やすと孔が悦んで飲み込んだ。今度はしつこくそこを撫で、押して、つまんだ。
「っく、ああっ、いい、きもちいっ…」
兄さんの口角は上がっているように見えた。笑っているのか。
もはや始末をしているのか、快楽を与えているのかわからなくなってくる。指を食む中の壁は時々驚くほど締まり、またゆるんではうねった。
兄さんの身体から妖しいもやのようなものが立ち昇っている気がする。なにかの術でも使われているのか、いやこんな大昔の怪かしのようなものは忍の技には存在しない。
つられて息が上がってしまう。
もう下半身が完全に蠢く壺を狙っていた。
「終わりました。」
ほとんど中のものを掻き出して、頭の中の冷静なところを全力でひっつかんでなんとか孔から指を抜いた。始末を手伝っていただけなのに、顎をつたって汗が垂れた。
兄さんは深く息をついて、おもむろに両手で尻を割って孔を見せつけ、にこりと笑った。
「もう終わり…?」
意思を持ったかのように腫れた口がおいでと開いて、さっきまで触っていた熱い肉壁がのぞいている。
ああ、これはおそろしい姿だ。
体がまとった空気に、吐き出されたなまめかしい息に、そしてあの眼の赤に絡め取られてしまう。
気づけば腰をつかんでいた。褌をずらしてびきびきと怒っているものを突き立てた。腸壁に温かくやわらかく抱き締められ、ぶわりと淫楽に飲み込まれる。
律動が止められない。揺らすたびに甘ったるい声で高いところへ連れて行かれる。体中が食らいつくせと戦慄いていた。
大人たちが畏れる気持ちが少しだけわかる。
獣のようになった自分が父の姿と重なって、吐きそうだった。
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