溺れる蒸気―大正軸詰め/弟宇/宇弟/父宇― - 4/7

宇弟

雨の仕事はいろいろなものが消えやすい。火薬のにおいも、血のにおいも、体液のにおいも。
閨事が必要な任務は普段ならほとんど兄さんにまわる。今回はたまたまもっと重要度の高い任務についていて留守だった。そこで、訓練が始まってしばらく、ようやく使い物になるようになったからと俺にまわされた。
なんてことのない情報収集だった。色事の好きそうな中年の男。何もわからないような顔で静かに震えながら時折詰まった声を吐き出してやると、満足そうな顔でべらべらとなんでもしゃべった。作法はほぼ教えられた通りにできたし、多少の気持ち悪さはまぁこんなものだろうと思った。
ただ、先日兄に訓練された右の鼠径部を撫でられた時、そこだけでおかしくなってしまいそうだったあの感覚を思い出してしまって困った。無事に任務を果たして雨の中を帰る時も、なんとなくそこが痺れているような気がして落ち着かなかった。
雨に打たれて冷えてしまえば右足の熱も流れるかと、すぐには屋敷に入らず裏の庭のすみで父に報告する内容を考えながら呆けていた。

「風邪ひくぞ。」
気配なく目の前に立ったのは兄さんだった。先に戻っていたようで、仕事着ではなく着物を着て傘を持っていた。こちらにも差しかけてくれる。髪が少し濡れているから湯を使ったあとだろう。
「悪かったな、俺がいなかったからあれの仕事だったんだろう。早く身体を流した方がいい。」
水を含んで重くなった髪を撫でられる。そのまま手を引かれて風呂へ連れて行かれた。足の痺れはもう感じない。
「冷えると後がよくないから。」
手際よく湯を浴びる支度をしてくれる。外での閨事は初めてだったからと気を遣っているのかもしれない。
さすがにもう下の兄弟のように小さくはないので、肌にへばりつく装束は自分で脱ぐ。なぜか兄さんも着物の袖と裾をたくしあげていた。
「始末はできたか?」
「教えられたようにはしたつもりです。」
「傷ができてないか見てやるから。」
おいで、と手招きされて素直に側へ寄ってしまった。この人は自分より場数を踏んでいるし長子には従うものだと教えられている。
湯の張られた槽に立たされ、足を肩幅くらいに開かされた。足の間に手桶を挟まれる。垂れると湯が汚れるから、と兄さんが申し訳なさそうに言った。
壁に手をつくよう言われてその通りにすると、尻を兄さんに突き出すような姿勢になった。じわりと恥ずかしさがよぎるが、この程度で恥と思っていては仕事が務まらぬと気を引き締める。緊張しているのか、外の雨音が大きく聞こえる。
「ごめんな、触るぞ。」
兄さんが自分の指を一度口に入れて唾液をまとわせ、半日前まで使用していた蕾の入口をぐ、と押した。
思わず息を飲み込む。
「力むな。息、吐け。」
ふーーっと息を吐くと、それに合わせて指がぐ、ぐ、と潜り込んできた。昨夜同じところに触れた、太く皺の刻まれた指ではなく、どんなことをやっていても綺麗なままの兄さんの、長い指。
「っ…ふ…ふぅ…」
壁を確かめるように少しずつ、回転させるように差し込まれる。途中、中の膨らみをかすめた。仕込みの者に最初に教えられた、強制的に快楽を引き出す器官。下腹がびりびりと疼く。
しかしそこに留まることはせず、さらに奥へと指は分け入った。
奥の方まで届いたところで、二本目の指が入ってくる。指先が入口をぐりんと通ると、一本目の指がたどりついたところをめざして道を広げながら進んできた。
足が震えて湯が波を立てる。
「う、う…っ、く…」
同じところに届いた二本の指が、孔を開く。お腹の中を直に広げられる感覚。暴かれる。
少しの間そのままにされていると、指の先あたりから、どろろと流れ出てくる感触に襲われた。背筋を震えが走る。
「何回出された?」
兄の声はひどく冷静だ。
「か、っぞえて、いま、せ…っう、あっ!」
言い終わる前に二本の指が掻き出すように曲げられて声が出た。あわてて唇を噛む。始末をしてもらっているのに、こんな声を出してはならない。
「結構奥に出されてる。自分の指だけじゃ届かねぇから。大丈夫、つらいな。」
優しく声をかけられるとかえって恥ずかしい。これは作業だと言い聞かせるのに、細く長く、奥からたらたらと流れるものを擦り取る指から悦さを拾ってしまう。任務の最中は同じところを擦られてもこんな風にはならなかった、のに。
ぎゅっと口を噛みしめる歯に力を込めると、兄さんが空いた方の手でそこに触れた。
「切れちまうから。声は出していい。」
上の歯を持ち上げられて、歯と歯の間に指が入ってくる。噛んでしまわないようにと口を緩めた。つられたように後ろの孔が一度緩んで、できた隙間を残滓がまた流れる。その感触に背筋が粟立って、今度はぎゅうと兄さんの指を締め付けてしまった。
「あっ…う、ぁ…っ」
指の形を腸壁が型どる。覚えたものを何度も確かめるように動きに合わせて孔がすぼんだ。ただの作業ではすまなくなってきている。足元に張られた湯からたちのぼる蒸気のせいだけではない。
腹が、熱い。
ぽとん、と尻から垂れた誰かの体液が桶に落ちた。
その音がひどくはしたなく、続けてぽと、ぽた、と落ちていく様に何か糸が切れたようになって、大腿に力がこもった。内壁が兄さんの指を食いちぎろうとうねりをあげて、視界が白む。
「ぅっ………っふ、うう…!!」
かろうじて口内の指を噛まなかったことだけは自分をほめたい。だけど首から下はもう溶けて違う生き物になっている。
上を向いた陰茎からだらりと零れた涎は、桶におさまらず湯の中に落ちて溶けていた。
「前に少し訓練した時も思ったけど、案外お前可愛いわ。」
耳に兄さんの熱い息がかかる。背中にぴたりと張り付かれて、尻の割れ目に固さのあるものがあたっていた。
「あ……?」
「魔羅の頭がこんな形をしてるのはなんでか知ってるか?」
言われていることがわからず首を振る。
ずる、と指が抜かれて、代わりにもっと熱を持った亀の頭が口を寄せてきた。
あ、と力を入れてしまうより一瞬早く、兄がその頭を入り口へめり込ませた。
「っはっ……!!」
大きく喉が反る。膝が折れそうになってまた湯が揺れる。さっきまでとは比べ物にならない圧迫感で息が吸えない。兄さんは遠慮なく、さっき指で暴いた奥を目指してめりめりと壁を広げた。
「他の雄が出した種を掻き出すためにわざわざ首がついてるんだそうだ。」
言葉はほとんど意味あるものとして入ってこない。
兄さんは言ったことをそのまま実行するように、一度奥まで入った後、雁首をひっかけながら壁をこするようにして、奥から浅い所へ引き抜いていく。
「ぁああっ…!」
声を抑えるなんてことはもう無理だった。声というより、内臓をかき撫でられた衝撃がそのまま口からこぼれ出ているだけ。
「ほら、出た。」
全部抜かれてしまうと、白く濁ったものがまだぽとぽと落ちた。兄さんは満足そうにもう一度、とそのおぞましい首のついた頭を奥まで埋めてくる。二度、三度、と同じようにされて、もう中に何か残っていようがいまいが、そんなことはどうでもよくなった。
奥が疼いて仕方なくて気が変になりそうだ。
こんな感覚はまだ、教えられていない。
「に…さっ…!」
涙で滲む目を向けると兄さんが少し驚いた顔をして。そして困ったように笑った。
「わり、調子にのりすぎたわ。ちょっとまだ刺激が強かったな。」
兄さんはあの血の匂いがする床の中で、いったいどんなことをして、されているのだろう。
仕事でこんな風に溺れそうになることがあるのだろうか。
それはまだ、初めて房事を終えたばかりの自分では想像もつかないことだけれど。
「もぅ…む、りで…す…」
泣きながら小さくこぼせば、優しい兄さんの手が腰を掴んだ。ほしいものをくれる手だ。
奥の疼きを埋めようとぱくぱく開く後ろの孔に、さっきよりさらに重さを増した怒張が、好きなだけ食べろとばかりに猛りながら入ってくる。
ほとんど残っていなかった理性はそこで手放して、あとはただ、兄さんに溺れるだけ。
もう雨の音は揺れる湯にまざってわからなくなっていた。
湯が汚れないようにとせっかく足で挟んだ手桶も、もうなんの意味もなかった。

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