もーそーわんしーんまとめ⑧0725-1101 - 8/9

10/24お題『兄弟で女装セックス』
ひとつの仕事を終えてホテルに戻り、アップグレードされたスイートルームで巨大なベッドに飛び込む。
この瞬間いつも、さっきやり遂げた現場の血だまりと、天国のような肌触りの白いシーツとのギャップに頭が酔ってしまう。手の平には銃身の重みが残り、指先は引き金の衝撃でまだ少し痺れていて、手首から先だけ置いてきてしまったみたいだ。
遅れて入った弟が、4人ほど座れそうなソファに置かれていた大きな箱の蓋を少し持ち上げて中をのぞいた。その顔から中身を察する。

「それ明日の衣装?」
「そうみたい。相変わらず悪趣味」

ボスは報告のためだけに毎回正装を送りつけてくる。スーツに色を付けたようなものから始まったそれは、最近ではコスプレといってもおかしくないレベルになってきた。メイド、中華、看護師……などの定石は早々に片付けられ、珍しい型のスーツ、ポールダンサーが着るような衣装、とどんどんおかしな方向へ進んでいる。そんな金があるのなら報酬をもっと上げてくれたらいいのに。

「見る?兄さんの、布少なくてウケる」
「そっちお前のかもしれないだろ」
「箱に名前書いてあるよ」

無言で口を突き出して不満を表明した俺を一瞥して、弟はそのままバスルームに入ってしまった。極上の布に顔をうずめながら大きくため息をつく。布が少ないということは、全身の毛を綺麗に剃り直さなくては。ここ数日は標的の行動に張り付いていたため毛どころかシャワーさえ浴びていない。その事実を思い出すと途端に肩口から脂とか土とか混ざった匂いが立ち上った気がして天国から連れ戻された。手入れの行き届いた布団に埋もれているのが申し訳なくなって、渋々弟の後を追った。

室内にこもる湯気で曇ったガラスの扉を開けると、弟がちょうど剃刀を体に沿わせているところだった。シュークリームの中に詰められているみたいな白い泡が、身体のあちこちに乗っかっていて、一筋ずつこそぎ取られていく。スプーンみたいな銀の刃に乗せられたそれは、口に運ばれることはなく出しっぱなしのシャワーにあっさりと流され、排水溝の淵にまるく引っ掛かった。仕事明けの湯だった頭で、甘そうだなと思う。

「俺も剃って」
「股もつるつるにしてやろうか」
「いや、今日はいいわ。レースの下着から陰毛がはみ出てるの興奮しねぇ?」
「ちょっとよくわからない」

血液の赤は人間の何かしらをひどく興奮させる。まだそれがおさまっていないようで、珍しく饒舌な弟が剃刀を楽しそうに揺らした。バスタブの淵に腰をかけて、その前にどんと足を投げ出した。皮膚の表面にサボテンの針みたいに立つ、半端な長さの体毛。触ると手の平をちくりと刺すそれは、あっという間に白く重みのある泡に包まれて見えなくなった。
憎まれ口ばかりたたく割に弟の作業はいつも丁寧だ。腕も足も脇も背中も、一本も残さず仕上げてくれる。
血と砂の匂いと、いらない毛をソープで包み込んで全部削いでもらう。目がくらみそうなゴールドのシャワーヘッドを高い位置に引っ掛けて、頭の上からぬるい湯を浴びながら抱き合う。金属の刃でなぞったばかりで違和感のある皮膚を2人でこすり合わせて、出来上がりを確かめながら。ぴたりと肌同士がひっついたことにお互い満足して、湯が口に入るのも構わず唇を貪り合った。乾いた唇のヒビに湯と唾液がしみ込んで、バリバリと立っていたところがふやけていく。同じくらいの厚みの舌を絡ませて、隙間から流れ込む湯と一緒に啜った。命を奪った後の、習慣。

拭き上げてぴかぴかになった肌に、箱から出した服をまとう。弟のは黒の総レース。チャイナドレスの型をベースに、腰から下は足元まで広がるフレアスカート。腹回りに赤と白で大きな花が刺繍されたドレスだ。
一方俺はというと、真っ赤なタフタ生地が隠してくれるのは胸から太ももの真ん中まで。サイドには上からも下からもスリットが入っていて、おかげで下半身の防御力などほぼないに等しい。パールとスワロフスキーの絡んだレースがそのスリットを繋いでいた。後ろ身頃は腰上までしか生地がなく、背中ががら空きで、V字に開かれた中央は尾てい骨がぎりぎり隠れる程度。鎖骨をぐるりと囲む幅広のレースから、腰の赤い生地と、胸の形にカーブを描いた前身頃へと、パールが幾重にも連なったものが繋がっていた。

「あいつ頭おかしいんじゃないの」

部屋に見合ったどでかい姿見にうつるのは、肌色の面積が多すぎる自分。タイトな型のおかげで腹筋のでこぼこまではっきりとわかる。
思わず毒づいてしまった俺の背中を弟が撫でた。

「仕方ないよね、兄さんボスに愛されてるから」

冗談なのか本気なのか、報告や打ち合わせのたびに誘われるけれど応えたことはない。できるだけ無下に断るようにしているが、気にも留めないらしいボスが送り付けてくるドレスはだんだん露出度が上がっている。

「兄さんの背中、キャンバスみたい」

人差し指で背骨の上をつうとたどりながら弟が言った。かつて進もうとして捨ててしまった道具の名称を引き合いに出してくるところが嫌味たらしい。けれどそれに反応するような情熱はずいぶん昔に冷めてしまっていたので、知らないふりをした。
洗い流した後でさえ、自分と同じ、硝煙の匂いが残っているだろう指で、いったい何を描いているのか、背中のあちこちをくるくるとなぞられてくすぐったい。肩に力を入れてむずがゆさに耐えていると肩甲骨のすぐ隣をじゅうときつく吸われた。

「んっ、あ!ちょっとどこ触ってる」

背中の方にばかり意識を持っていかれている間に、反対の手が太もものスリットに差し込まれている。

「んー」
「んーじゃねぇよ。あとでまた風呂入んの面倒だからやんなよ」
「んー」

こういう返事のときは、だいたい俺の言うことなんか聞いちゃいない。そもそも仕事を仕上げたばかりで、目に焼き付いて離れない色と、鼻にこびりついた生臭さでお互いアドレナリンの分泌がおさまらないのだ。
剥き出しの肩甲骨に舌を這わされ、その感触が脳の興奮に直結して、あっという間に情欲が体を占めていく。もし翼があったら付け根にあたるその部分の、薄い皮膚に生ぬるい唾液を乗せられただけであっという間に体は燃え上がった。
服にあわせて履いてみていた細いヒールの靴を脱いで転がす。鏡にべたりと手をついて、守りようがない背中を弟に明け渡した。キャンバスみたいと言ったその舌が、筆のように濡れた線をじとりと引いていく。スリット部に入ったり出たりして遊んでいた弟の手が、足の付け根の際どいところを撫で始める。

「ん……せな、か、綺麗になってる?」
「完璧。一本も残さずつるつる」

その報告だけで背骨がびくりと跳ねた。弟以外に触られるなんて想定があるわけでなし、贈りつけられた服をただ着るだけなら、本当は毛なんか剃る必要はない。色も型も美しいドレスから伸びる手足に、不釣り合いなものが生えている方が、もしかしたらボスの気を削ぐ効果があるかもしれない。
それでも見た目や触り心地、着こなしの完成度を気にして体を仕上げるのは、こうして血を分け合った手が、舌が、肌に触ってくれるからだった。

「う、ふっ、あ…んん、も、はやくしろ…」
「さっき、やるなよって言ってたくせに」

鼠径部のラインを丸く押しなぞっていた指はとっくに勃ちあがった茎を包み、背中に見えない絵を描いていた方の手は、尾てい骨を下って弟のものが収まるべき穴の中に潜り込んでいた。
鏡にうつる自分の下方に目を向ければ、質量を増したものがゆっくりと扱かれるのが見える。赤く短い布が緞帳のように引き上げられているのは目に毒だ。こちらを向く鈴口は銃口を想像させるが、涎を垂れながらぱっくり開いていてだらしない。筋張った弟の指がそれを掬って、竿を擦り上げるためのぬめりに使う。
その後ろは見えないが、中を埋めている指の抜き差しにつられているんだろう、ぶら下がった睾丸が一定のリズムで揺れていて、穴が何をされているのか想像してしまう。人間の脳は優秀だ。散らかされたヒントを拾い上げて、見えない映像を脳内で補完し、瞼の裏側でリアルに再生する。

「く、あっ、ぁあ、ん、も、ていね、いにすんなっ」

ぐちょ、と濡れた音を立てる指は、俺より価値の低い心臓をさっき破裂させたんだ。引き金を引いた時の動きそのままに、前立腺を押す。直接的な快感が体を追い立てるが、その強さも、はやさも、まったくぬるすぎて、それは明日会うはずのボスの口調を思い出させた。弟は全部わかってやっている。セックスの途中で別の男を想起させるなんて、性格が悪いにもほどがある。
鏡越しに俺の表情を観察していた目を睨めば、おもしろくなさそうに逸らされた。意地悪な趣向に付き合う気のない俺に少し苛立ったのか、深紅の裾を乱暴に捲り上げられたが、スリットがうまく機能して、弟が思ったように服は破れたりはしなかった。

「もう挿れていいの」

俺の体勢をそのままに、弟が一度体を離す。背中に隠れるようにかぶさっていた姿がまっすぐに立って、黒いドレスの足元がふわりと広がった。スラックスやスウェットの時ならば、中心の盛り上がりで弟の興奮がわかるのに、こんな衣装じゃまったくわからない。動く気配のない立ち姿に焦れて、弟の方へ向き直り、やわらかいスカート部分を握った。持ち上げるとさらさらと生地がこすれる音と共に弟の太ももがさらされる。着ているものとまったく合わない筋肉質な脚。丈の長い黒をくしゃくしゃと手の中にたくしながらさらにめくれば、付け根でいきり立っているものがやっと出てきて、ひどく安心した。向き合った体の温度が同じくらいだとわかって、思わず顔がへらりと緩んだ。「間抜け面しないで」と咎めながら、弟が俺の肩足を肩にかつぐ。開き切った股関節の真ん中で熱をほしがる穴の口が、ぱっくりと中の粘膜をのぞかせた。

「う、んんあっ…――く、ああん」

灼けた棒で内臓が押し広げられる。運んだ死体の冷えていく様を思い出す。この高い熱は、ちゃんとやり遂げてお互いが生きていることを確かめるために必要だった。
奥まで差し込まれて、入り口まで引き抜かれて。その動きに邪魔な裾は俺が皺にして握ったまま。おかしな恰好だなと思いながら、せめて弟の服は汚さないようにと手はそのままにしておく。

「あっ、ああ、う、んあっ、」
「服が汚れるからその行儀の悪いちんこ我慢させて」
「むりっ、む、りっ、出ちまうっ…」

先走りを我慢する方法なんかあるもんか。片足立ちで下から突き上げられるのに、両手は弟の服をつかんでいるせいで体がぐらぐら揺れて不安定だ。床を支えているふくらはぎの筋肉に余計な力が入って、ぴくぴくと痛みが走った。
どうせこの服を汚したって、そんなことはお見通しの雇い主が明日の朝には新しいものを届けてくれる。俺たちがおもしろがってこの正装を報告前に汚すことを、ボスもまたおもしろがっているようだった。仕事柄なのか、単に性格なのか、お互いイカれているなとつくづく思う。
こうやって現実味のないシンデレラみたいな皮をかぶって、生身の肉を感じ合って、身につけた服がなじむスイートルームを冷えた頭で馬鹿々々しく思って、狂わせた感覚で次の仕事に意識を向かわせる。
そういう生き方をすると決めたのはもう10年以上も前で、その時にキャンバスも絵具も人間らしい生活も、全部捨てたことは、微塵も後悔していない。

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