8/3ちこくしたπの日
午前7時15分。定時の搾乳に容器を持って、同じ形の白い扉が整然と並ぶ牛舎の廊下を歩く。扉は上半分が格子状になっており部屋の中の牛の状態が見える。ひとつずつ部屋の様子を横目で確認しながら歩いていく。ほとんど本日の搾乳を終えているので、リラックスしている個体が多い。寝転がって皮膚のケアをしたり、この後の散歩を待ちわびて鈴付きの紐を自分で首に下げたり。
そうして一番奥の部屋の前に立つ。いつもなら、足音が聞こえた時点で、格子の間から小さな耳をのぞかせて触れと動かしているのに、今日は出ていない。
ドアをノックする前に部屋を見回すと、案の定、部屋の隅で壁を向いて小さくなっていた。他の牛より体が大きいので、本人は小さくなっているつもりのその背中は、相変わらず大きくて広い。昨日は拗ねていて搾らせてくれなかった。1日くらいならと見逃したが、今日はそういうわけにはいかない。おそらく腫れて痛いはすだ。
コンコン、とゆっくりノックして扉を開ける。
「入るよ。そろそろ機嫌直して。」
「機嫌悪くねえし。」
地を這うような声。とても機嫌が良いとは言えない。
「あんまり意地はらないで。今日は搾らないと、そろそろ痛いよね。」
ぴく、と耳が動いたのが見えた。後ろ姿をよく観察すると肩甲骨から首にかけていつもより皮膚が赤みを帯びている。
毛や目の色が他と違う珍しい種のこの個体は、乳腺の発達がよく、取れる乳の量が多い。その分、できるだけ定期的に搾乳しないと乳房の中に溜まってぱんぱんになり、腫れや赤み、痛みを引き起こす。乳腺炎にもなりやすく、それをさらに放置するとばい菌が入って病気になる可能性もあるのだ。
「痛くない。」
こんなに頑ななのは、一昨日他の牛の搾乳をしているところを見られてしまったからなのだが。
きたばかりの若い牛だった。まだ上手く出せなくて、機械を使ったり丁寧に手で時間をかけてやったりしていたのだが、溜まっていそうな割に出ていなかった。
仕方ないので陰茎と前立腺を手で刺激した。牛は気持ちよくなれるのでリラックスでき、ホルモンが分泌されて出がよくなる。ちょうどそれをしているとき、散歩に行く途中だったこの牛が部屋の前を通りがかって見てしまったらしい。どうやらそれまで、自分だけそれをやってもらっていると思っていたらしく、昨日からヘソを曲げてしまった。
「俺がするのが嫌なら、他のスタッフと替わろうか?」
「それは嫌だ。」
「じゃあ搾らせて。あんまりできないと、俺とは相性が悪いと思われて、担当はずされるかもしれない。」
牛は頬を膨らませて考え込んでいたが、渋々といった感じでようやくこちらを向いた。
「他の牛にもああいうことすんの?」
「なかなか出ない時だけね。仕事だから。」
不服そうだが仕方ない。
「俺だけじゃないんだ…。」
見てしまったものに加えて、事実を告げられて今度はへこんでしまったらしい。申し訳ない気もするが、仕事に取りかからなくては。
「ちゃんと搾乳させてくれるなら、他の牛にするより気持ちよくしてあげる。」
少し性格が面倒なのだが、ちゃんと目を合わせて話してやると従順になる個体なので、なるべく優しい声色でなだめながら、左右の乳頭にプラスチックのカップ状の器具をひっつけた。先から細いホースが伸びて、容器に流れて溜まるようになっている。スイッチをいれれば搾乳器としても使えるものだ。
触るよ、と一言ことわって手を伸ばす。返事こそしなかったが拒否はされなかったのでそのまま乳房に触れた。予想どおり、硬くなって熱を持っている。どのくらい張っているかと全体を押してみると痛みがあるのだろう、牛が顔をしかめた。
「最初痛いけど、少しだけ我慢して。」
弱い設定で機械のスイッチを入れる。
「えっ、やだ、機械ですんのやだ!」
この牛はこの機械を嫌う。強制的に吸われる感覚が受け入れられないらしい。なので普段は搾乳機能を使わないのだが、この固まったものを搾るためには少しだけ必要だった。
ひゅう、と電子音がしてカップがゆるく断続的に吸引を始める。それに合わせて、乳房のいちばん外側から掬い上げるように肉を寄せ、揉みほぐす。
「んん、いた、いっ…」
「溜めるとこうなるよ。」
カップのまわりをぐりぐり押すと乳首からびゅっと乳が出始めた。乳腺に沿ってほぐしながら、詰まって石のようになっているところがないか探す。その動きと搾乳器の吸引とで、白い体液がびゅーびゅー出ては流れていった。
「ん、んん、んーっ…」
乳が出るときは快感を伴うらしい。痛いだけではないのだろう、お腹がひくひくと震えている。
いくらか出すと、手触りがだいぶやわらかくなってきたので機械を止める。
「がんばったね。」
銀の髪をすいてやると紅潮させた頬を手にすり寄せてきた。張りはまだ残っているので、あとは普段のように手で搾る。
少し汗ばんでしっとりした胸の肉を手のひらで包む。吸い付くような肌は栄養が行き届いている証拠だ。
乳頭に向かってやわらかく力を込めるとさっきまでの勢いはないが、今度は一度にたくさんの量が溢れそうなほどにカップの中へどくどくと出た。
「お前の手、好き……。な、あの牛みたいにして。」
ゆらゆらと尻を揺らしながら擦り付けてくる。本当は乳が出にくいときにするのだが、もっと出がよくなるならまぁいいだろう。
「こっち、毎日するのは、ここだけだから。」
四つん這いにさせて甘い言葉を流し込み、薄い耳を食んでやるとうっとりと目を閉じた。これでしばらくは機嫌が取れる。
尻の中心へ指を這わすと興奮しているためか穴が潤んでいた。入口付近は熱を持って腫れぼったく膨れている。
「もしかして自分でした?」
「だってあいつお前の指もらって気持ちよさそうだったから…!」
昨日搾乳もさせず一人部屋にこもってここをいじっていたというわけか。ためしにいきなり3本指を入れてみたらぬるりと入ってしまった。
「ぁあん…ゆび、ゆびきもち…」
「ゆるゆるになってるけど。搾乳ちゃんとしなかったのに一人でこっちいっぱいしたの?」
「ごめ、なさ…!」
ぐずぐすに蕩けている中はとても熱い。気の毒な思いをさせたかと思っていた昨日の心配は吹き飛んだ。
「だめなうし。」
わざと響くように冷たく言い放って、再び機械のスイッチを入れる。さっきよりも設定を上げた機械は力強くぎゅ、ぎゅ、と牛の乳首を吸い始めた。
「やっ…機械やだごめんなさいぃっ…!」
「ちょっと可哀想だったし、昨日搾らなかったから病気の心配とかしたんだけど。」
ぐちゃぐちゃと音を立てて中をかきまわすと、おもしろいくらい乳が噴き出るのが見える。牛は胸を突き出すように背中をしならせ頭を左右に振った。
「ひあっ、ごめっ、う、ああっ、ごめんな、さいっ…」
「昨日の分までいっぱい搾ろうね。」
反り返ってお腹にびたびた当たっている陰茎も握ってやるとそこからも白い体液を噴く。
「ぁひゃんっ…ひっ、やぁ、やだ、」
「こうしてほしかったんでしょ?気持ちいい?」
「ひっ、もちいぃっ…!」
前立腺はいつもより膨れて存在を主張していた。すでに自分でも何度も押したであろうそこをぐりぐりと押し込む。
「ああっ、ひう、やだやだ、も、やっ」
出したばかりの鈴口がまた吐精して、つられるように乳首が乳を噴く。
「上と下とどっちがいっぱい出せるだろうね。」
片方の乳房から器具を取り去る。手で乱暴につかむとまたびゅーっと出た。乳首と前立腺を同時に何度も押し込む。
「わかんなっ…あああん、ごめ、ちゃんと、まいにちさくにゅ、するから…!」
謝りながらも愉悦に支配されて体液を出しつづける淫らな体が、乳と精液とどちらで汚れているのかわからなくなる頃には、どちらもほとんど出なくなっていた。
ぐったりとした牛の、もう片方の乳房からカップをはずしてやると、くっきりとついた丸い跡。明日まで残るかもと、そっと舐めてやると、牛はへらりと嬉しそうに笑った。
その日取れた乳は甘く濃く、飛ぶように売れたらしい。
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