もーそーわんしーんまとめ⑥7/6-7/15 - 8/10

7/13
冷たい水で口をゆすぐ。吐き出すと洗面ボウルの白い陶器の上を赤い水が流れた。顔を上げて鏡を見ると口の横が少し腫れている。見えるところを殴られたのは久しぶりだ。
顔を洗って、タオルを持ったまま部屋に戻ると消毒液をテーブルに出して弟が待ち構えていた。
「いいよ、そんなの。」
そんなことより他にやってほしいことがある。殴った肉の感触が拳に残っていて、一刻も早く弟になだめてほしかった。
邪魔な頬の切り傷を隠すように手で覆うと、弟はその手を取ってじっと眺める。中指の根元あたりから赤くぼこりと腫れているうえ、擦ったような傷が細かくついていて、頬なんかよりよほどひどかったことに初めて気がついた。
「手は商売道具なんじゃないの。」
「んー。」
促されて渋々座る。傷口に消毒液をかけられるとぴりぴりと沁みて痛い。たしかに2、3日は筆を握るのが辛いかもしれない。もういい大人だというのに、なにをやっているんだか。
腫れた手の処置をするついでに、弟が頬にも絆創膏を貼ってくれた。
「明日学校でなんて説明するの。」
教職員が外で殴り合いの喧嘩をしたなんて報告するわけにいかない。若い頃やんちゃしてきたことは知られているし多少のことは多めにみてくれる職場ではあるが。
「弟と喧嘩したって言っとく。」
「あ、そう。」
絆創膏の上からするりと傷を撫でられる。
「な、もういいから。して。」
頬の手を取って口に入れると、ふふんと笑った弟が舌をつまんでぎゅうとつねった。

お互い全裸になって浴室でシャワーをひねると、全身あちこちお湯が沁みた。肩や背中、膝に擦過傷ができている。
さっき揉めた奴らは、高校生の時に学校同士でやり合ったグループの一部だったらしい。名前やどこの学校の奴だったかさっぱり思い出せなくて困ったのだが、昔の自分の尻拭いだ仕方ない、と売られたものは買い取った。
「後々こういうことになるから、ちゃんとしなよって言ったのにね。」
背中の擦り傷を指で抉りながら弟が言った。同時に中の指を動かされて痛いのと気持ちいいのが一度にやってくる。
そういえば当時はどこかでもめ事を起こすたびよく弟に怒られた。俺たちが兄弟だというのは割と有名で、そのせいで弟がいらぬ声をかけられることもあった。
「お前さ。」
「うん。」
「妹じゃなくてよかったよ。」
弟は学校では静かで成績もよく、どちらかというと優等生寄りだったけど、変な風に絡んできた奴は全員徹底的に返り討ちにしていた。手加減とかない分、俺よりよほど強かったんじゃないかと思う。
だから弟の身に何か降りかかったら、なんてことを案じることなく好きなようにできた。
「そういう問題じゃ、なかったんだけどね。」
出しっぱなしのシャワーが降り注ぐなか、弟の怒張を受け入れる。はずみで零れた涎はすぐに流れて綺麗になった。巻いてもらったばかりの手の包帯はあっという間に水を吸って重くなっていく。
ざあざあと水の音を聞きながら揺らされていると、弟ががりと肌に爪を立てて、絆創膏と反対側の頬に新しい傷ができた。がりがりと続けて傷をつけながら、乱暴に奥を突く。
「あああっ」
「大人になってからもずっと、こうやって昔の自分に絡まれることになるから。」
馬鹿だね、兄さん。
そう言って今度は乳首を力任せにねじりながら弟はまた腰を動かした。
どれだけ呆れていても、見えるところに傷をつけて明日から普通の生活をするための言い訳をくれる弟に、優しくしてくれてありがと、と言って俺は笑った。

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