もーそーわんしーんまとめ⑥7/6-7/15 - 4/10

7/9
びくっと時々飛び上がりながら光る画面を見る俺と、隣で正面を向いたまま微動だにせずコーヒーを飲む弟。
消えた部屋の電気、クーラーはついているけど汗をかいたビールの缶。続きを飲みたいのにもうぬるくなっているし、喉を通る気がしない。

夏だし、なんていう短絡的なノリでホラー映画なんぞ観始めてしまったけど、一緒に見る相手を間違えている気はする。もっとこう「ぎゃ」とか「うわ」とか言ってくれる奴と観ればよかった、かも。
中盤を迎えたストーリーはもうずいぶんと長いこと、くるぞくるぞという助走のシーンを引っ張っていて、飛び上がる準備ばかりできているのに、肝心の山場がこない。
思いっきり怖がりたいのにそこへ連れて行ってくれないもどかしい感じをいい加減なんとかしてほしくて、隣に投げ出されている手に手を重ねた。
温かな体温に少しだけ安心する。画面はようやく大物が出るかといったところ。真正面からあらわれるのであろうモノを視界全体で捉えるのはためらわれて、視野の半分に弟の顔を入れた。画面の光でできた陰影のせいか、いつもより鼻が高く、唇に厚みがあるように見える。恐れながらも進む主役の姿を完全に排除してしまわないようにしながら、そっとすり寄って横から弟の口にキスをした。
口角に舌を細く入れると目線は画面にやったまま、少しねじるようにして口を開けながらこたえてくれる。なんだよ、興味なさそうだったくせに内容が気になってるんじゃないか。怖いシーンのたびによそ見してる俺なんかよりよほど集中している。もう少しこちらを向いてほしくて、べ、とさらに舌を出したら画面から突然ドンと衝撃音がして、遅れて悲鳴が聞こえた。
思わず肩が上がって心臓が押されたように背中の方へ沈む。ぱっと口を離して画面に向き直るともう主人公とその恋人はなにかに襲われていた。間抜けな声を出す間もなく、今度は弟に口を取られて画面が視界から消える。体重をかけられ、ソファに倒されて、逃げ惑う役者を横目に観ながら入って来た舌と唾液を啜る。こんな一番怖いところで見るのをやめてしまったら結局どうなったのかが気になってずっと引きずってしまう。それはそれで嫌だったから、なんとか話を追うために画面に視線をやろうとしたけど、弟の手が目の上に乗せられて阻まれてしまった。
耳だけが拾う複数の悲鳴と走る靴音、口内を襲う舌の感触と混ざりあって音を立てる唾液。湿度の高い夜にひやりとしたくて始めたのに、体温を上げられてしまう。映画の彼らは捕まってどうにかされているのだろう、肉をつぶすような音と液体がたたきつけられる音が聞こえ始めた。粘膜を触れあわせながら映像なしでそれを聞くと変な気持ちにしかなれなくて、離してくれそうにない気配に、あきらめて両腕を弟の首にまわした。
オチがどうなったかなんて、あとでネットで探せばいい。ほどよい暗さの中、ひとつ、またひとつと減っていく叫び声を聞きながら、シャツの裾にもぐりこんできた手の方に意識を集中させた。

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