7/8―狼狽さんのスペースを聞きながら書いたらくがき―
半開きの下あごにどすりと乗せられたのは真っ黒な冷たい口だった。重い硝煙の香り。押し上げられた上の歯が当たってかちりを嫌な音を立てる。これは、あれだ、銃。本物を見たことがないからこれがモデルガンなのかとかわからないけれど、少なくとも舌の上に乗る厚みが、おもちゃではないぞと主張していた。
状況が飲み込めなくて見上げると細く尖った赤い目が言った。
「舐めて。」
こめかみから嫌な汗がふきだして顎が震えた。振動にあわせて鉄の塊がかちゃかちゃと音を立てる。少しでも仲良くなれたら生きられるかもと試しに舌を這わせてみると、いつも頬張っている弟の温度とは天と地ほどの差で鳥肌が立った。
涎が零れそうになって啜りながら飲み込むと、鉄と煙のにおいが一緒に気管に入る。これは飲み込んで大丈夫なのか。
だんだん非現実的な事態に、頭が考えることを放棄し始める。
脈打ちもせず、血管の張りもなく、先から何も滲んでこない重みを舐める。唯一、歯を立ててもかまわないところだけはよかった。銃身を歯でぎちと挟んで、こちらの命を狙う口に舌を入れる。許しを請うように何度も出し入れした。向こうから絡んでくるときはこちらが絶命するときだから、絡ませてくれない方がいいのだけれど、つないでもらえない手が宙をかいて空しくなるように、いくら舐めてももらえるものが何もないのは寂しくてたまらない。
口内で少しずつあたたかくなってくるそれを丁寧にねぶる。なんとかして、頭に穴をあけられないようにしなくては。
弟はおかしそうに笑っていた。
「口に入ればなんでもいいんだね。」
ごり、と急に奥まで入れられると銃口が口蓋をかすめて喉奥に届いた。そこが締まって押しとどめようとする。唇に用心金が当たってひやりとする。
舌がトリガーに届きそうだ。あと少し伸ばしてそこに触れたら、自分で自分を絶命させてしまう。
人間の体とは不思議なもので、そんなことになってもなぜか自分のものが勃っている。口の中は熱くて、股の間には血液が集まっていて、背中だけが寒かった。
トリガーにあたらないようにガードのフレームをなぞり、舌の根本で銃身を締める。息も上がらないし詰まった声もしない、常にこちらの生死を握っているそれはせせら笑っているようだった。
「そのまま咥えといて。」
いきなり手を離した弟は俺の後ろにまわって下半身を剥き出しにする。下あごにどしりと重みがかかって、歯の力だけでは支えきれそうにない。
「落としたら暴発するかもよ。」
楽しそうに言う弟はまだ指の一本も入れていない後ろの穴に火傷しそうなほどの怒張をあてがう。まだ無理だ入らないと弱弱しく首を振ると、滅多にないくらいの笑顔で思い切り突っ込まれた。
その痛みのおかげで、食いしばった歯が鉄の塊をがっちりつかんで命拾いしたのかもしれない。
「切れたかな、中、濡れてあったかい。」
ぴりと鋭い感覚がしたような気もするが口の方が必死でわからない。腰をつかまれて、おそらく滲み始めたのであろう血液を塗りこめるようにしながら出し入れされたら、もう気持ちよすぎて生きていることなどどうでもいいと思えた。
コメントを残す