もーそーわんしーんまとめ⑤6/26-7/5 - 8/10

7/3
トマトジュースでもひっくり返したのかと思った。
冷蔵庫のドアを開けて目に飛び込んできたのは滴る赤。2人暮らしには似つかわしくない700Lの中身は、昨夜までミネラルウォーターとビールとワインが何本か、くらいでほとんど空っぽだったような気がする。トマトジュースはなかった。
起きたときあまりに頭が重く、瞼がなかなか開かなくて、水を飲もうと台所まで体を引きずって行った。窓から見える外は蜃気楼が見えそうなほどの暑さだが、部屋の中はきかせすぎのエアコンで肌寒い。
警戒せずそこを開いてしまって今度は見開いた目が閉じなくなった。雑に口の結ばれた黒いビニール袋が上の段から下の段までぎっちりと詰められ、棚板の端からポタリポタリと赤いものが垂れている。よく見ると、トマトジュースというよりは赤ワインに近いかもしれない。
前から浴びせかけられる冷気と、遠くから聞こえるセミの声。現実味のないぎゅうぎゅう詰めの冷蔵庫。見つめたまま固まってしまい、早く閉めろと急かす電子音が鳴って、ドアポケットからペットボトルだけ取って閉めた。

大きく息をついてコップに水をそそぐ。
別にこれが初めてじゃない。
だけどなんの情報もなくいきなり目の当たりにするこの光景は心臓に悪かった。胸を押さえるとばく、ばく、ばく、と跳ねているのがわかる。
水を一口あおると冷たいものが食道を通って流れていって、それを見守るように視線を下にやると、脇腹からにゅっと腕が差し込まれた。
「うわっ!」
体のラインに沿ってTシャツの裾へ手がもぐりこみ臍をくすぐる。
弟のものだとすぐにわかってふーと息を吐くと背中に頭がひっつけられた。
「浴槽にまだ残りがあるから。シャワー使わないでね。」
ぞく、と背を這う悪寒。今俺にまわされている手で、たぶん昨夜、実行したのだろう。そういえば夜中まったく目が覚めなかったし、今朝の寝起きは最悪だった。睡眠薬、盛られたな。
自分の手を弟のそれに重ねると温かく、血の通った生きている手だ。

こういうことに慣れてくるのはよくないと思うんだけど、もう何度目かだからか、動悸はだんだん落ち着いてきている。
「俺の風呂どうすればいいの?」
弟の腕をさすりながら聞くと、ネカフェにでも行けばと言われる。
そういうところに行ったりするから、新たな出会いがあって厄介なんだけど。その冷蔵庫に詰められている男もネカフェで出会った。そうか、つまりこれは嫌味だ。
反対の手がシャツの背中をまくりあげる。肩甲骨のあたりをじぃーっと見た弟は、そこに吸い付いた。
「消えたね。よかった。」
何日か前についていた跡とほぼ同じ場所を、唇の形にじゅうと吸って、舐める。皮膚のほんの表面にしかつかないはずの跡は、弟につけられるともっと深くまで刻まれているような気になる。皮下組織のさらに下の肉が疼いてぶるりと震えた。
臍のまわりをくるくるとたどっていた手がウエスト沿いに後ろにまわる。尻の割れ目をなぞって、そのまま孔の中へ。昨日準備したままで使われなかったそこは、大した抵抗もなく迎え入れた。
「んっ…シャワー使えないのにやんの?」
質問している間にもう下着ごとおろされている。ひたりと当てられる熱い切っ先。
「浴槽の蓋閉めたら浴びられるけど…嫌なんでしょ。」
当たり前だ、嫌に決まっている。樹脂の壁に囲まれたあの狭い空間のにおいを想像しただけで鳩尾のあたりからせりあがるような感覚に襲われる。蓋を閉めていたってそこに昨日まで生きていたものが入れられているところで平気な顔をしてシャワーを浴びられる奴なんていないと思う。
腰を掴んだ弟がそのまま中に入ってきて、内臓が広げられる。手にしていたコップが揺れて水が零れた。指を濡らし、手首をつたって腕を流れていく。ゆるやかに奥まで埋められてまた抜かれて。
俺がどこに行って誰と寝ようが弟は基本的に何も言わないし、自分も好きなときにセックスする。ただ俺の体に跡をつけられるのを極端に嫌がって、それを見つけるとつけた奴を徹底的に潰した。そういうところはとても怖い。
こいつからもらえるものは熱くて苦しくてどろどろで、誰に抱かれた記憶も全部塗りつぶしていく。弟以外のものが残らないようにされているのかもしれない。
「あぅ…ッ…っ!あっ…♡やぁ…おく、んっ、」
ぐりぐりと奥を捏ねまわされるともうコップは持っていられなかった。巨大な冷蔵庫を横目にカウンターにすがる。ああ、ごめんね、俺がセックスしてもいいよって言っちゃったから。
暗く冷たい棚の中で切り離されて折り畳まれている男のことを考えると腹が切なくねじれて、ますます弟の形がよくわかった。
「んんんんっ……!」
前も後ろもあっという間に達する。電化製品の冷たい横顔に手を這わせて撫でると、弟が一番奥に出したのがわかった。どく、どく、と熱いものが注がれる感覚は、さっきの動悸と似ている。
とても嬉しくなってぎゅうぎゅう締めたら、足を片方持ち上げられて角度を変えられた。中に居座るものはまだ膨らんだまま。出したものを塗りたくるように回したり擦ったりと動かしながら弟がまた背中に吸い付く。

冷蔵庫をそろりと舐めた。外側もキンキンに冷やされていて、舌につるりと冷たく硬い感触。
さっきより力強く突き入れられたところがぐじゅと音を立て、あふれたものが内股に伝う。シャワー使えないのに、と思ったけれど、どろどろにされて俺が床に転がっている間に弟が浴室を片付けてくれるんだろう。もしそうでなかったら、黒いピカピカの箱に見つめられながら、そこのシンクに入って水でも浴びることにしよう。
シャワーの心配がなくなったらすっかり安心して、俺は甘えるように尻を振って弟の恥骨にすり寄った。部屋ごと冷蔵庫みたいなこの部屋では、上げても上げても冷まされてしまうから、この行為の終わり方がわからないなと思った。

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