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ゆらゆらと揺れる瞳が、空をうつしている。赤の中に、深く暗く吸い込まれそうな群青。散りばめられた数多の星があちこちで時折ぴかりぴかりと光るのが、にじんだ涙に反射してとても綺麗だ。地に広がった銀の髪も一緒にきらきらして眩しいくらいだった。
性器同士がパズルみたいにはまって、動くたびにさらに奥へ入っていく。地面にこすれる背中が痛くないか心配になったけれど、何もないよりはと下に敷いた硬いナイロンの上着がずれていないから少しはましかなと思った。
こっちを見てほしくて顎をつかまえる。自分の顔が赤にうつりこむと、そこは細く弧を描いた。伸びてきた手が首にからまって引き寄せられる。深く口を合わせると驚くほどフィットして舌で握手をした。初めて会ったのに、どこを引っ付けてもこんなにぴったりなのはなぜなんだろう。
お腹の方はとても熱くて、流れてくる風で冷まされる。この星の風はからりころりと何かが転がるような不思議な音がする。倒れた2人を受け止めた少し丈の長い草のおかげで膝がくすぐったい。まだ生殖のやり方も教えられていないのに、この行為がそれだということはわかる。ここに来る前に禁止事項として伝えられていたことも、忘れてはいなかった。
「……ぁっ…あ…」
甘い声が風に流されてしまうのがもったいない。全部自分の耳に閉じ込めてしまいたかった。
「――――、――――」
残念ながら言葉はわからないし、おそらくこちらのことも通じてはいない。その代わりなのか、体の出っ張りをおさめたところがぎゅうと抱きついてきて、そうしたら付け根のあたりから熱い波がうまれて少し乱暴な気分になった。どうするのが正解なのか、体の動くままに従って繰り返し腰をぶつけると、我慢できないものが押し寄せてきて、もっと深くまで入って大きな体を抱き締めた。両足で背中にしがみつかれて、溶けてしまいそうなくらいくっついて息を詰める。ぶると震えた性器から、体液が飛び出していった。
俺の星はほとんどの人が、この人みたいな姿形だった。白、金、銀、パールピンクのような髪色に赤い目。肌も白く手足は長く、陶器みたいな肌をしていた。
珍しく黒髪で生まれた俺は遺伝子の研究に幼い頃から参加した。髪や肌の組織を定期的に採取されることには少し違和感があったけれど、それを除けば生活に不自由はなく、言われたように暮らしていた。
ある日、最近交信を始めたばかりだったよその星と研究データをやり取りすることになって、現地に向かうチームがつくられた。これまで多大な協力をしてくれたからと、俺も一員に入れられた。正直どっちでもよかったけど、今はそうしてもらえてよかったと思う。
降り立った地は、育った星と真逆だった。ほとんどの人が俺と同じような体の特徴をもっていた。黒、深い緑、濃い灰色の髪に赤い目。もしかして本当はここに生まれるはずだったのではないかと思ったくらいだった。
上の人たちが互いの言葉を翻訳し合いながらデータの交換をする間、末端の者は少しばかり星を見て回ることを許可された。決められた時間に戻ること、現地の者と生殖行為をしないことを条件に。
何を見ていいのかよくわからなかったから、耳心地のいい音のする風がながれてくる方へふらふらと歩いていったら草の生えた広いところへ出た。その真ん中に立っていたのがこの人で、俺の星のほとんどの人と同じ色合いだった。でも同じに見えたのは一瞬だけで、流れる髪も透き通る肌も目の赤も、見たことがないくらい美しかった。俺と目が合うと、たぶん挨拶みたいな言葉を発して、手招きしてきたから、吸い寄せられるように側へ寄って、気がついたら2人でもつれて倒れていた。
どろどろのものを体の中に流してしまって申し訳ないと思いながら息を整える。相手も俺のお腹のあたりに同じような温度の体液をかけていた。この綺麗な人を汚してしまったかもしれないけど、抜いてしまいたくない。お互いきつく抱きしめたまま、動けなかった。
汗で濡れた髪を耳にかけてあげると星がこぼれるような顔で笑った。
「―――」
わからないけれど、きっとお礼だと思う。額をくっつけて、真ん丸の目玉を覗き込む。ふと頭に浮かんだ言葉を口にすると胸の真ん中が落ち着いた。
「兄さん。」
ひときわ大きく風がふいて、がらんごろんと音も大きくなる。急にものすごく眠くなって抗えずに目蓋が落ちてくる。腕の中の目も同じようにとろりとしていた。眠ってしまう前にと唇を食んだら、遠くに母星の言語が聞こえた。研究、新しい段階……みたいなことを言っている気がする。禁じられていたことを破ってしまったせいでこの人を巻き込んでしまうかもしれないと思ったら心苦しいけれど、ずっとひっついたままでいられるならいいかと思えた。もう銀河をうつさず閉じてしまった瞳に小さく謝って、皮膚が1枚になってしまえばいいのにと強く抱いた。
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