もーそーわんしーんまとめ⑤6/26-7/5 - 10/10

7/5
クラゲの水槽に照らされた横顔を見つめる。青い薄明かりが目の赤とまざって紫色に見えている。その目線の先、白く縁取られた透明の傘がもわ、と膨らんで、つながったフリルみたいな腕がきゅると縮む。足のように見えるあれは腕らしいということは、何度も通ううちに覚えた。足はないのだそうだ。寝ても覚めてもこんな風に浮かんでいるのなら、足は確かに必要ない。
弟は飽きることなくそれを眺める。イソギンチャクもチンアナゴも物静かで見入ってしまうけれど、結局はこのクラゲの前に立ち止まる時間が最も長い。
きゅる、きゅる、と縮んで進むのをずっと眺めていると、俺はつられて尻の中を動かしてしまう。それは儀式みたいに体が覚えたこと。傘がしぼむのにあわせて穴を締めると、中を埋めている器具のカーブがいいところを抉る。
弟がこの水族館に来たがるから2人でよく訪れていた。全部見終えると必ずそのあとセックスする。だからすぐにできるようそうやって準備しておくことが恒例になっていた。
黙って動かず、水と同じ温度でその生き物を見つめ続ける弟の横で触ってもいないのにひとり性感帯を勝手に刺激して熱くなる体。そっと手を繋ぐと弟の手はひやりとして、気持ちよかった。
体の芯から脳に快感が伝わる。クラゲの冷たい動きに合わせて、もわ、ぎゅ、もわ、ぎゅ。足が震えて熱い息がこぼれる。
「兄さん。」
「んっ…な、に?」
弟は水槽から目を離さず言った。
「先週ここ来たでしょ。父さんと。」
父さん、という単語を聞いたとたん前立腺が暴れて頭が白んだ。人前で勃起しても目立たぬようぴっちりと陰茎をつつんだティーバッグにじわと染みができる。締めすぎた内壁がぐりぐりとさらに膨らみを押して、達した自分を自分で追い込んでしまう。
「あっ…ん、ふ、」
太ももに力を入れてさらに器具を吸い上げるようにすると腹の奥が疼いてどうしようもなかった。
滲んだ涙で視界がぼやけて、隣に立つ姿の輪郭が曖昧になる。繋いだ手は弟なのか父さんなのか。
さっきまでクラゲだったものが白い人魂になって、水の中を漂う腕が泳ぐ精子に見えてくる。
立っているのが辛くなって隣の肩に頭を預けると、繋いだ手を出口の方へ引かれた。
「行こうか。」
「はい、父さん。」
小さく口にすると、もう一方の手がのびてきて、喉仏を押した。父さんにされる日は呼吸ができなくなって声がなくなるから、明日は仕事休まなくちゃなとうっすら思った。
父さん先週火葬されたのに。俺もお前もおかしいよ。
でも引っ張られる手の先はどう見てもその姿で。今日はそういう日なんだなと、尻のエネマグラをますます締めながら内股で歩いた。クラゲの人魂が飛び出してきて、ついてくるみたいに見えた。

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