6/22
ずらりと並ぶ黒い丸。大中小と整列した洗濯機の口の中で濡れた服がゴウゴウ音を立てている。独特の、金属が熱を持った匂いと、何種類かの柔軟剤の香り。
わりと最近できたこのコインランドリーは全面ガラス張りで清潔感があり、大通りに面していて深夜でも真っ白に明るい。
そんな爽やかな場所で、自分だけひとり体に燻るぐずぐずとした熱に浮かされて膝を抱えていた。さっき途中まで高められた体がなかなか冷めない。いつもなら少し時間を置けばひいていくそれがおさまらないのは、身に付けたTシャツから弟の匂いがするからだ。
予報通りならば今日は続く雨と雨の間、狙っていた洗濯日のはずだった。朝カーテンを開けて細く降り続く様にがっかりし、昼までゴロゴロしながら待ってみたもののやむことはなく、夕方をすぎても状況は変わらなかった。どうせ乾かないからまとめてやろうと洗濯物を溜めていた結果、Tシャツは今朝着たもので最後だった。
だというのに、いま隣の椅子でそ知らぬ顔をしてスマホを眺めている弟に触られて、服を汚してしまったのだ。あの指で体の中を撫でられる気持ちよさに抗えず、シャツとパンツに派手に飛ばしてしまってから着替えがないことに気がついた。最後までしてしまっては到底洗濯なんぞする体力は残らないからと、半泣きで頼んだらそこでやめてくれた。いつもならまったく聞き入れてくれないのに、明日仕事に着ていく物もなくて、さすがに気の毒だと思ったのかもしれない。自分の服を貸してくれた。
もう日付も変わっているというのに天気のせいだろう、いつもより稼働率が高い。時折人がやってきては、衣類を出したり入れたりしていた。
抱えた膝は自分のスウェットを履いていて、少しでも落ち着くために鼻を埋める。それでもずっと布越しに呼吸するのはつらくて、少し顔をあげると、肩や胸のあたりから自分と似ているようで違う匂いがして頭の芯がぼうっとした。あわててまた膝に鼻を押し付ける。兄弟で、シャンプーやボディソープ、洗剤も同じなのに、体臭はそうじゃないんだな。弟の、自分を貫くあの立派なものをいつも隠している下着が尻を包んでいると思うと、もぞもぞと腰が動いた。
「調子悪いの?」
横目でこちらを見た弟が背中をさすってくれる。いま触らないでほしい。体が揺れてしまう。
「だいじょうぶ…。」
助けを求めるように洗濯乾燥機に目をやったけど、まだ30分近く終わりそうにない。こんなに溜めるんじゃなかった。
「ああ、途中だったからまだサカってるのか。」
背中の手がだんだん降りてくる。指が一本、ウェストのゴムを持ち上げて、腰のカーブに沿ってつうと線を描いた。
飛び上がりそうになったのと、自動ドアから人が入ってきたのが同時だった。
「やめろ…。」
「静かにしてないとばれるよ。」
信じられないことに、そのまま手の平で臀部の丸みを撫でながらまだ下へ降りてくる。割れ目に添えられた指が、座面と尻の間へ窮屈そうに入ってきて、孔につんと触った。
「あっ。」
まさかこんなところで直に触られるとは。慌てて口も膝に埋める。ますます背中が丸くなって、座面から尻が浮いた。
動きやすくなったのをいいことに、弟が浅く指を入れた。ぞわぞわと背筋が粟立つ。入り口が勝手にぱくぱく動いて、体が応えようとしているのがわかった。ふと目を上げると、さっき入ってきた人が乾いたものを大きなビニールバッグに詰めていた。
口が吸い付くのをおもしろがるように、ゆっくりと出したり入れたりされると、そこに熱が集まる。背もたれがあるとはいえすぐ後ろはガラス窓。近くから見られたら、角度によっては何をしているかわかってしまう。
気が気じゃないのに、快感に慣らされすぎてしまった下半身は弟の指に従順だ。皺をひとつひとつ伸ばすように捏ねられると、ふっとゆるんで、少しでも深く入れられるとぎゅっと縮んだ。奥歯を噛み締めて下からくる波をやり過ごす。
大きくなる呼吸音をおさえられているか自信がない。衣服を詰め終わった人がぱんぱんに膨らんだ袋を肩にかけて、前を通りすぎる。ちらと見られた気がして体が強張った。目を閉じて、額を膝に擦り付け、体調が悪いかのような空気を出す。自動ドアが開いて、閉まる音。
「見られるの好きなの?そこの机の上でしてあげようか。」
きつく締まって指にすがりようになってしまった壁をぐるりと広げられる。
「ばっか…ぁ、んなわけ、ないっ…」
「俺のパンツ汚さないでね。」
それはもう手遅れだと思う。折り畳んだ足の付け根では完全に立ち上がったものが早く出せと布を押している。湿った布が先っぽに引っ付いている気がする。
弟の下着に漏れ出たものが沁みている。そう思ったら何もかも投げ出して最後までしてほしくなって、ついに手を伸ばしてシャツを掴んだ。
「も、おねが…っ」
ピーーー、と乾燥の終わりを知らせる音が俺の言葉を消した。洗濯物が乾きました、と丁寧なデジタルの声が告げる。
弟はすっと尻から手を引いて立ち上がった。
「ここでする気だった?恥ずかしい奴。」
机に備え付けてあったアルコールで指を消毒しながら心底馬鹿にした顔をする。
突然現実に戻された俺はぽかんとしてしまって、弟が洗濯物をカゴにうつすのをただ呆然と眺めた。
帰るよ、と言われて、立てないことに気がつく。股間が盛り上がりすぎていて無理だった。
小さな声でそう伝えると、
「先に帰ってるから。そのパンツは返してくれなくていいけど、あとで下洗いしておいて。どうせまたシーツを洗いに来るからその時一緒にまわす。」
と言い捨てられて置いて行かれた。
まわらない頭で、はしたなく汚してしまったことをどうやったら許してもらえるか想像する。しばらくかかってやっと、シーツを洗いに来るの意味がわかってしまって、ますます立ち上がれなくなった。
一気読みしました!胸焼けなんてとんでもない、一気読みならではの多幸感半端ないです!やっぱ18→23の流れが好きだな…最後25が右オトートで完璧なフィニッシュでした!1番最初から通して御本で読めるの、楽しみにしています!
わーー一気読みありがとうございます!!
私も18→23のやつ結構気に入ってます。ちょっと続き書きたい…!
まさかの右でのフィニッシュになるとは自分でも予想外でしたが、そう言っていただけると嬉しいです(*^^*)