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レジの若い男の子が、ちらちらとこちらを見る。よそ見しているから手元のビニール袋がなかなか広がらない。焦ってタバコの箱をつぶしてしまわないか心配だ。まつげが長い。肌もきれい。ファンデ塗ってるのかな。前髪もう少し切れば可愛いのに。
観察していると時々目が合って、そのたびに顔を真っ赤にする。高校生くらいか。
たったの2品を袋に入れるだけでものすごく時間をかけた彼が、上ずった声で値段を教えてくれる。スマートフォンを取り出してバーコードを見せると、俺の指を凝視しながら読み取ってくれた。
わかるよ。俺の顔も指も、好きだろ。
商品を差し出してくれた手に、わざと手をちょんと当てながら受け取る。袋の中身を確認するそぶりをしながら反対の手で髪を耳にかけてピアスを見せてやると、ごくりと喉が動くのが見えた。ありがとうございましたと細い声でマニュアル通りの挨拶をしたあと3秒置いて、意を決したように目を合わせてきた。
「あのっ…よかったら連絡…」
一言一句、予想と同じ言葉をツルツルの唇がこぼし始める。思わずふふと笑ったら、俺の肩を押し退けるように斜め後ろから手が伸びてきて、ドンと音を立てながら小さな箱をカウンターに置いた。
勇気を出して紡いだのであろう初々しい言葉が途切れる。
「会計を。」
冷たく言い放つ俺と似た顔。大きさも形も同じくらいの手が放した箱には「0.02」と生々しい数字が書かれていた。
「すっ、すみません!」
その子が震えながら値段を読み込む。薄さを強調するその数字に釘付けだ。おもしろい。
「まだ家にあっただろ。」
肩に乗ってきた顎に向かって言うと、足りなかったら困るから、とピアスを噛まれた。
かわいそうだからやめてあげてよ。まだ若いのに目の前でこんなの見せられちゃって。ほら涙目になってる。
「袋いらないです。」
読み取りの終わった箱をさっさと取った弟がスマホを出してQRコードの表示された画面をその子に傾けた。
「やめなよ。この人誰にでもこんなだから。」
決済完了の短い音で全部おしまい。
どうせ箱の中身を使うことなんかないくせに。
「行くよ兄さん。」
腰に手をまわされて店を出る。自動ドアが閉まって、まだガラス越しに姿が見える位置で、弟は俺の後頭部をつかまえて引き寄せた。
もうわかっていたから、最初から口を開けて吸い付く。咎めるように舌を噛まれた。
「ああいうのは食べたらだめ。」
諭すような声に、はぁいと軽く返す。帰ったら怒られるなこれは。弟の背中について行きながらさっきの潤んだ目を思い出してちょっとだけごめんねと思ったけど、もう俺の目線は駐車場に停まった車の中から向けられる熱っぽい視線の方へ向いていた。
一気読みしました!胸焼けなんてとんでもない、一気読みならではの多幸感半端ないです!やっぱ18→23の流れが好きだな…最後25が右オトートで完璧なフィニッシュでした!1番最初から通して御本で読めるの、楽しみにしています!
わーー一気読みありがとうございます!!
私も18→23のやつ結構気に入ってます。ちょっと続き書きたい…!
まさかの右でのフィニッシュになるとは自分でも予想外でしたが、そう言っていただけると嬉しいです(*^^*)