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網戸の向こうから耳を塞ぎたくなるほどのセミの声。夏休み間近、クーラーの壊れた部屋で、俺は壁を背にして座ったベッドの上で、まだ制服姿の弟に見下ろされている。だらだらと流れる汗は暑さのせいなのか、冷ややかな圧のせいなのか。
帰ってすぐに部屋に持ってきた麦茶のグラスで氷が溶けだし、カランと音を立てる。そんな軽やかな気持ちではないというのに。
「俺が頼んだブルーレイどうしたの。」
肩口までまくり上げていたカッターシャツの袖が片方、怯んで、ほどけた。
「後輩が……返しに行ってくれるって言うから……。」
「俺が、兄さんに、頼んだのに?」
ことさらに一言ずつ切って発音してくるところから苛立ちが伝わってくる。
朝、家を出るときに渡された深い青の袋。映画だってドラマだってサブスクで観られるはずなのに、こいつは年寄りみたいにわざわざ店舗で物を借りてくるのだ。
今日は放課後何の予定もなかったから自分で行こうと思っていた。たまたま帰りが一緒になった奴が、家の方向と同じだと言ってかわりに袋を小脇に抱えて行ってしまった。日ごろ親分面して、ひっついてくる奴にあれこれとやらせていたのが、こんなところで裏目に出るとは。
「ごめ……」
「自分が引き受けたことをそうやって人頼みにするのはどうなの。」
そんなことを言うくらいならそもそも自分で返しに行けばいいのに。
とは言えない。ついこの間までは兄である俺の立場が上だった気がするのに。一度ひっくり返されてしまって以来、立ち位置が今の状況とまさしく同じだ。
「ちゃんと教えてあげたのにわからないの。」
弟の顔が近づいてきて、反射的に頭が後ろに下がろうとするが、ごつと壁に当たっただけだった。カッターシャツの襟をつかまれて引き寄せられる。思わず目をつむったら頬に歯を立てられた。
反対側の手は不躾にズボンの中に突っ込んでくる。いつもゆるく、ギリギリ腰にひっかかる程度にしか留めていないベルトを後悔することになるとは。パンツの中にまで侵入した手は中心部を握りこんだ。
「ちょ、なにして…」
「なにって、言葉で言ってあげた方がいい?」
いちいち圧が強くて怖い。力なく首を横に振ると勝手に是だと判断されて強めに揉まれた。何度かこんな風にされたことはあるがまだ慣れない。殴り飛ばしてしまえばいいのに体が固まってしまう。
少し上下に擦られただけでそこは芯を持ち始め、反対に体の力が抜ける。ウエストにできた隙間から汗で蒸れたそこのにおいが立ち上ってくるようで恥ずかしい。
頬にあった弟の顔が、下へずれていく。シャツが鎖骨のあたりから汗で肌にひっついて邪魔をしていた。
「ボタン開けて。」
忌々しそうな声と同時に耳たぶを噛まれて大きく肩が跳ねた。侵入するものを防ぐ術を持たない聴覚器官に舌を入れられ、容赦なく産毛を舐めあげる音を聞かされる。手のひらに包まれた陰茎が涎をこぼしはじめ、指の動きに合わせてぬるついた音がし始める。それと合奏でもするように、わざとぴちゃぴちゃと音を立てながら唾液をたっぷり耳孔に塗りたくられた。反対側の耳に、また溶けて沈む氷の音が遠く響く。
「んん、み、み、やめ…っ」
耳がこんなに体の熱を生むところだったなんて、弟にこんなことをされるまで知らなかった。知りたくなかった。
ボタンをはずそうとかけた指が汗ですべる。もたもたしていることに苛ついたのか、襟を離した弟は、肩までまくりあがった方の袖からだらりと下がっていた腕を頭の上へ持ち上げた。汗ばんだ体臭の閉じ込められていた窪みが空気にさらされる。
「ばかっやめろ!」
何をされるか予測がついてしまってそこを閉じようとしたが、ズボンの中でとろとろと体液を溢れさせている鈴口を指で押し込むようにされると力が入らなかった。
されるがまま、脇に鼻を寄せられ、すん、と息を吸い込まれる。緊張が高まって汗腺が開く。腋窩のラインにべとりと舌を這わされ、言いようのないくすぐったさが背中を駆けた。
たったそれだけで、もう下半身が限界を訴えている。弟の指と手のひらとで強く甘く上下に動かされるのに合わせて腰が浮き始めた。
「もうぱつぱつだけど、先にイったらだめだからね。」
吐き出すためにだんだんと膨らんできた首を人差し指でぐっと締められる。
「あっ」
外気より湿度が高い部屋の中、自分の乱れた息がさらに温度を上げている気がする。脇に汗が滲むたび舐めとられ、恥ずかしさと気持ちよさで体温が下がらない。すがれるような冷たさがどこにもなくて空気に飲まれる。鳴きやまないセミは夕方担当のヒグラシに変わっている。もう麦茶の氷はひとつも残っていない。
「あれ出して。」
弾けそうな下半身の先を指でぐるりと撫でまわしながら弟が顎でベッドサイドを指した。もうボタンの外れないシャツのことは諦めたらしい。
重い腕を動かして引き出しを開ける。3回目からそこに勝手に入れられたボトルを取って差し出すと、弟はズボンの中から手を抜いて受け取った。はずみで下着のゴムに挟まれたものが悲鳴を上げる。
脇から顔を上げた弟は、ようやく自分のネクタイを緩めて抜き取った。普段かっちりと上まで締めていても暑さを感じさせない首元に、たらりと流れるものが見える。弟も汗ばんでいるのかと思うと動悸がした。
ボトルの蓋に手をかけたのが見えると俺の手は勝手に動いてベルトをはずす。もう次の動作を体が覚えてしまっている。だけど汗がぐっしょりと染みた下着は肌に密着してなかなかずれない。裏返しに丸めてしまいながら膝までなんとかおろしたところで、そのまま全部脱がしてもらえず両足ごとあげられた。折り畳まれたようになって、自分の膝が顔に迫る。体が柔らかいのはいいことばかりではないらしい。
「持ってて。」
言われて膝裏を抱える。続きをねだるような恰好だ。
むき出しになった尻の孔と会陰に向かって、弟がボトルの中身をかけた。ぼたりと落ちたそれは生ぬるくて気持ち悪い。冷蔵庫に入れていなくて大丈夫なのかと余計なことを考えてしまう。
指で広げるようにして少し塗ると、弟はすぐ自分のジッパーを下ろして硬く上を向いた屹立を取り出した。先に解してくれるものだと思っていた体が強張る。まだ閉じたままの入り口にいきなり先っぽでキスをされて息を飲んだ。
「慣らしてほしかったら、謝って。」
「え…?」
「もしちゃんと返却されてなかったら俺が困るよね。そんなことも考えずに人任せにしたことをだよ。謝れたら慣らしてあげてもいい。」
想像される痛みとプライドを天秤にかけて、あっという間に俺は後者を放り投げた。
「ごめんなさい…。」
「それだけ?」
「次は自分でやるから…悪かった…。」
子どもみたいな文句しか出てこなくて情けない。弟はふうんとだけ言った。これでいいのかどうか、表情からはわからない。目を逸らさず見つめていると、膝裏の手を片方取られて孔を触らされた。
「自分で指入れて。」
いきなりあの大きなのを挿れられるよりはマシかもしれない。恥ずかしさより先にそう思ってしまった。判断がおかしいのはきっと、頭の中まで汗をかいているんだろう。
弟の手に押されて自分の中指をゆっくり入れる。熱い。張りのある腸壁をまるで他人のもののように撫でると勝手にぎゅうと締まった。最初のうちは違和感しかなかったそれ。経験を重ねたことで、ここは気持ちよくなれる器官だと記憶が書き換えられている。
「ふ、う、んん、う」
膝裏を支えた手の中を汗が流れた。体が思い出すままに自分の指で内壁を撫で、硬い入口を揉む。弟の視線が刺さる。だんだん羞恥よりも期待の方が膨らんできている。ふうふうと息を吐きながら、力を抜くように努めた。上からローションを足してくれたから、抱えた膝の間に顔がはまりそうなくらい体を曲げて尻を上げ、人差し指も入れた。2本で広げるように動かすと、つながった奥の方が疼いた。
「兄さんはこっちのほうがよっぽど物覚えがいいよね。」
弟がボトルの中身を自分のものに塗る。腹の中が期待して震えた。姿勢が苦しいからか部屋が暑すぎるからか、もう正常な思考は残っていない。欲しいのはこの先に与えられるもっと高い熱。指を抜いてもう片方の膝を抱え直し、心を込めて謝罪した。
「ほんとに…ごめんな。」
「二度と同じことしないでね。」
ぐぶりと、弟の灼けたものが内臓に侵入した。
学校に行けば、体が大きくてちょっと喧嘩が強いからと番長だなんて持ち上げられる。まわりに人が集まるとすぐ調子に乗る俺を、いとも簡単に組み伏せたのはこの体温だ。どろどろに溶かされて思い知らされる感覚を完全に覚えさせられてしまってもう戻れない。
上から挿すように体重をかけられ一気に奥深くまで沈められる。言われたとおり、頭なんかよりよっぽど尻の方が聞き分けがいいと思う。内壁が悦んで怒張にまとわりつきながら吸い上げる。中でさらに弟のものが膨れて、その形に広げられた。
「あぁっ…あ、ごめ、ごめんっ、あああきもちいっ…」
「頭の悪い奴らと騒ぐのも、どこかで喧嘩するのも、好きにすればいいけど。」
「うん、うんっ」
「俺に迷惑かけないでね。」
勢いよく何度も穿たれて、ローションが汚い音を立てる。太ももの裏を、圧迫された腹を、汗が流れ続ける。背中はシャツが濡れすぎてシーツと一体だ。部屋の茹だった空気を吸い込んで肺まで濡れる。麦茶はすっかり常温を通り越しているのだろう、グラス底に水溜まりを作っていた。
外では誰の手にも負えない俺の手綱を握った弟が、いつもは涼しい目元にまで汗を浮かべている。うだるようなこの空間の中で高まっているのが自分だけではないとわかってしまって、兄だとか上だとか、心底どうでもよくなって、流し込まれる高温にただひれ伏した。
一気読みしました!胸焼けなんてとんでもない、一気読みならではの多幸感半端ないです!やっぱ18→23の流れが好きだな…最後25が右オトートで完璧なフィニッシュでした!1番最初から通して御本で読めるの、楽しみにしています!
わーー一気読みありがとうございます!!
私も18→23のやつ結構気に入ってます。ちょっと続き書きたい…!
まさかの右でのフィニッシュになるとは自分でも予想外でしたが、そう言っていただけると嬉しいです(*^^*)