6/11
テレビが告げる今日の降水量。そんなものを見なくても、うるさいくらい耳に届く雨音。開けた窓からじっとりとした空気が入ってきては、肌にまとわりついている。
さっき本日は一日中雨だと伝えた女性アナウンサーの声が、気温も高く蒸し暑くなると付け加えていた。
両手で髪をかきあげながら後ろへ集めて、はぁ、とため息をつく。まとまらない。さっき着替えたばかりだというのにカッターシャツの襟の中はすでにしっとり汗をかいていて襟足の髪が何本もひっついてしまっている。それをはがして上へ運ぶたび、今度は違う髪が一束こぼれて落ちて、また貼りつく。
面倒くさい。このままおろして行ってもいいのだがあまりに暑いし、首についた毛がうっとおしくて授業中気になってしょうがない。集めても集めてもどこかから落ちてくる毛束に苛々していると突然ヒヤリとしたものが首のうしろに落ちてきた。
「うおっ!」
「一回拭いた方がいいんじゃない。」
早くしないと遅れる、と言いながら弟が汗拭きシートを当ててくれていた。するりと撫でられると首元がすーっとして気持ちいい。一瞬後にはまた汗が吹き出すことがわかっていてもサラリとした感触がありがたい。
弟はというとシャツのボタンを上までキッチリ閉めているのに涼しい顔だ。こいつの汗腺はどうなっているのか。
「貸して。」
手首に通していたゴムを取られる。いつものポニーテールなら思い切り髪を後ろに引っ張られると思って軽く目をつむったが、衝撃はこなかった。
かわりに上の方の髪を一部、すいすいと編んでいるような感触。
弟は俺の髪を扱うのが上手い。一本一本が細いらしく絡まりやすい毛は、毎晩トリートメントをしてそれなりにケアはしている。それでも手がでかすぎるからか、自分でまとめるとだいたい毛が残ってしまう。同じくらいの大きさのはずなのに、いつも弟の手は一本も後れ毛を残さずまとめてくれるのだ。きちんと結ってもらうと背筋も伸びる。
真ん中の髪束に向かって、右、左、右、左と残してある髪が少しずつ拾われては交互に編まれていく。右の髪を取った指がつい、と耳に引っ掛かった。ぴく、と思わず首が反応してしまう。次は左。やっぱり耳の縁を指がつるりと撫でていく。さらに次は少し下がった右、髪を拾ったついでに耳孔にずぶと指が入って小さく声を漏らしてしまった。
わざとだ。
首筋にまたじわと汗をかく。じきに終わる、と皮膚がぴくぴくするのを感じながら耐えて待った。だいたい騒ぐとかえって大変なことになる。
全部の髪を編み込んで、ゴムをくるくると巻いてくれる。少し安堵してふうと息をついたら、できあがった編み込みを持ち上げられ、襟足の下をべろりと舐められ、吸われた。
「うあっ」
「しょっぱ。」
唾液で濡れたところに、湿度の高い空気が触れて、なんとも言えない気分だった。
弟は遅れるよ、となんでもない顔でまた言って、舌を見せつけるようにして口のまわりを舐め、通学カバンを背負った。
もう髪が貼りついていない首はすっきりして心地よかったが、雨のせいか頭がぼんやりして、あんまり授業には集中できそうにないと思った。
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