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背中の不快感でふっと目が覚めた。じとりと濡れてひっついたシャツの感触。うつ伏せで枕を顔に抱いている。首が変な角度で左を向いて、頬は布の跡がつくほど押し付けられ、涎が少し染みていた。
起き上がって口を拭きたいが、頭が重くて動かない。痛む首をせめてまっすぐにしたい。
耳のあたりに暗い固まりがまとわりついているような違和感があって、目線だけ向けると、弟がその暗い所へ顔を寄せるのが見えた。
口をすぼめて息を吸うようにすると、ずるるる、と脳みその中から耳を通ってミミズが這いずるような感覚が、弟の唇に吸い込まれていく。
「う、…ーっ…」
気持ち悪い。
寝る前に映画を観た。定番の、なんてことないゾンビもの。内容なぞ覚えていないが、眠りの端からよく似た人外の生きものが、ずぞろずぞろと夢の中に湧いて出たような気がする。
それと戦う主役だったのか、何の力もなく逃げ惑う一般人だったのか、自分の役どころは忘れてしまったが、びっしょりと汗をかくくらいには不快だった。
弟が最後にひと啜りすると、残っていた暗いミミズが尾のように口の端で少しだけ跳ねて、そして吸い込まれて消えた。
「美味かった?」
涎が垂れたままの口を動かして聞いてやると、ふ、と笑う。
「まあまあかな。もうちょっと怖いの観ないとね。」
俺は本来、爆速で走るタクシーとか、謎の組織から仕事を請け負う殺し屋とか、そういう映画が好きなんだけど。
弟が望む日は、ゾンビやエイリアンが出るもの、人間がバラバラにされるもの…いわゆるホラー映画を観せられる。
「ホラー観ると肩が凝るんだよな。」
「そう。」
着替えなよ、と気持ちのよくない衣服を脱がしてくれる弟は、子どものころから俺の悪夢を吸っている。
どれも最高ですね
ありがとうございます!!全部読んでいただけて嬉しいです!!(うよ)