5/27犬歯
鼻と鼻がつくくらいの距離で赤い目線が絡まる。薄く開いた唇からは犬歯がのぞいている。日ごろ大きく口を開けることの少ない弟の尖った歯が見えるのはこういう時だけだ。
肉食獣を思わせる静かな殺意に背中がざわつく。
自分にも同じ位置に同じ形の歯が生えているのに、毎日鏡で見るそれとは全く印象が違った。
兄弟とはいえ、テンポの一致しない呼吸音が交互に聞こえる。はぁ、と耳に届くのは自分の呼吸か、それとも餌に噛みつく前の弟のものか。
あ、と弟が少し口を開く。位置が変わって明かりが当たると先端が光ったように見えた。
思わずそこに舌を伸ばす。切っ先に押し付けるようにしながらゆっくり舐めると、表面をざりざりと抉るような触感で頭がしびれる。
反対側も同じようになぞると弟のべろの付け根に唾がわいたのが見えた。
一度離すとごくりと喉が動く。
深く息を吐いて、今度は自分が口を開けて見せると、がぶっと音がしそうな勢いで上唇に食いつかれた。唇の裏側のやわらかい粘膜に犬歯を突き立てられる。チリと痛みが走ったところへ熱い舌が這わされて、べとりと舐められるともう我慢できなくなって、夢中で弟に吸い付いた。
頭を抱き込んで、唇と顎の間を舐めまわす。よしよしと宥めるように口を開けてくれたから、どちらの舌かわからなくなるくらい絡めて吸った。
齧られ、しゃぶられ、魂を吸い合って、溶けてしまいたくなった。
どれも最高ですね
ありがとうございます!!全部読んでいただけて嬉しいです!!(うよ)