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がしゅ、がしゅ。何度押してみても、ポンプは中身のない音を立てるたけだった。昨日はまだ、力まかせに5回くらい押したら申し訳程度のコンディショナーが手の平に飛び散って、集めたら少なめ1回分くらいにはなった。ということは犯人は後からシャワーを浴びた弟だ。浴室ドアの向こう、歯を磨くシルエットに向かって苛立った声をかける。
「空にしたなら詰め替えろよ。」
キ、と薄く扉が開いて歯ブラシを咥えた弟の顔が半分のぞく。
「さっきはまだ出た。」
「嘘だろ昨日ほぼほぼ出なかったのに。」
「ポンプ開けて逆さにしたら出た。」
「それで最後だったんなら詰め替えろって。」
「まだもう一回分くらいは見えたね。」
いつも通り表情はないが固い意志を感じる。何がなんでも自分が最後ではないと言い張りたいらしい。
ポンプを開けて口を下に向け、反対の手を広げて待つ。
「出ねぇじゃねーか。」
「角度が悪いんじゃない。」
開いている隙間から手がにゅっと伸びてきて俺の手の上からボトルを握る。傾けて、動きは小さく、でも力強く、手の平に打ち付けられた。
ぼと、と落ちてきたのは白っぽいゲル少々。
「ほらね。」
手を引っ込めて扉を閉める瞬間にふふんと笑った顔が見えた。
「おっま…!こんなん1回分じゃねーわ俺の髪は長ぇーんだよ詰め替えろ!」
悔し紛れにまくしたてる。
ばん!と今度は大きく扉が開いて勢いよく伸びてきた両手に後頭部をつかまれた。痛い、という暇もなく口を塞がれる。兄弟だからかほとんど同じ大きさ同じ形の唇がぴったりとくっついて空気が抜ける隙間もなかった。
ゆっくり離れた唇が意地の悪い形に歪む。
「夜だから静かにして。ちゃんと詰め替えておいてね。」
ぐっと髪をつかんでいた指がくるくると毛先をあそんだ。
「あと長い髪綺麗だね。」
おまけのように付け足して、オヤスミ、と扉が閉められ、弟の姿はなくなった。1ミリもそんなこと思ってないような言い方にむかむかむかと込み上げるものがあったが、綺麗だねと言われた髪を綺麗に整えるため、閉まった戸を開けて、雑に詰め替えパックをつかんだ。
どれも最高ですね
ありがとうございます!!全部読んでいただけて嬉しいです!!(うよ)