ーキスの日ー
「なーここ見てくれよ。変なことになってね?」
兄さんが下唇をべろんと下にめくった間抜けな顔を寄せてくる。
「もーよっかまへからなおんねーの。」
日ごろの不摂生のせいだとしか思えない。昨日…いや今朝も外が白む頃に帰ってきて泥のように布団に倒れこんでいたくせに。
のぞきこんでやると唇の裏側の粘膜、歯茎の付け根に近いあたりに白く丸いものができている。
「ふーん。」
思わせぶりな空気を出してやると途端に不安そうに赤い目が揺れる。最初からそんなに深刻だと思ってないくせになぜわざわざこちらに見せるのだろう。
「もっとよく見せて。」
兄さんの手をどかせて、かわりに下唇をぎゅっとつまんでべろんとめくる。
そのまま自分の舌を伸ばして白いできものを舐めた。
「い゛っ!!」
噛まれてはたまらないので反対側の手で兄さんの鼻をつまんで、そのままその凸状の部分に舌をこすりつける。
「ー--っっっ!」
ぷくぷくとした感触を何度も確かめる。結構くせになりそうなさわり心地だ。少しおもしろくなってしつこく舐めているうちに、ぎゅうときつく閉じられた瞼に涙が浮かんできたので離してやった。
「いっ…てぇわ!」
にらみつける顔はまったく迫力がない。
「舐めたら治るかと思って。」
べ、と舌を見せつけるとゆるんだ目が横にそらされた。
「治んねー…だろ。」
「もう一回やってみる?」
痛くしないから、と犬みたいに下唇をちろりと舐めると、痛くすんなよ、と小さく開けられる口。
ちょろい、とこぼしそうになったのをごくんと飲み下して、今度は上唇ごとゆっくりとかぶりついた。
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