寝る前に飲むといいことがたくさんあるらしい。
夕方に弁当を買ったスーパーで、三角巾を巻いたおばちゃんに押し付けられた乳酸菌飲料。
テーブルに放られたままだった弟の煙草の横に置いてみた。
「飲む?」
「なんで。」
「身体にいいんだって。朝すっきり起きられるってよ。」
ちらりと見てはくれるものの、ソファに沈み込んだ弟は1ミリも動きそうにない。明日の朝も早いはずだ。
「飲ませて。」
口を開けるのすら億劫なのだろう。小さく小さく言葉がこぼれた。
薄い蓋をはがして一口含む。ひどく甘くて喉に絡みそうだ。
疲れきってぱりぱりに乾いた唇を食んで、乳白色の栄養素を流し込むと、明らかに顔が歪んだのがわかった。
「あっま」
「疲れてるから、このくらいでちょうどいいんじゃねぇの。」
弟がまだ動けなさそうなのをいいことに、もう一口それを含んで、少しだけ甘く湿った唇をもう一度ふさいだ。
ー追記分ー
くたくたの体をひきずってシャワーを浴びた弟がタオルをひっかけて戻ってきた。テーブルに置いたままだった飲みかけの乳酸菌飲料を手に取って口元に運ぶ。
くいと傾けると、口の大きさに対して小さすぎる容器から勢いよく流れ出した液体が横から細く垂れた。
弟は気にすることなく形のいい喉仏を大きく上下させる。つられて自分も喉仏を動かしてしまった。
空の容器を置いた弟が目線を俺に向け、手の甲でぐいと垂れたものを拭い、べろりと舐め取った。
「すごい顔。兄さんも飲んでほしいの?」
意地の悪い顔で笑われて、さっき飲みこんだ甘い空気が喉の奥から鼻に抜けたような気がした。
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