固まったなコイツ。内心鼻でふんと笑いながら、そんなことはひとつも顔に出さず「どうした」とだけ言った。
お前が連れて行けと言ったんだ。気に入りの飯屋があるのかと。身を屈めてくぐるとき、上等なスーツやセットした金髪を汚してしまいそうな暖簾を、おれはやすやすとくぐって先に入る。豚やら牛やらの脂と金属の焼けるにおいが鼻をつくが慣れた客なら一瞬もすればもうその店の空気で全身満たせる。
振り向くと、ベタつく暖簾をデカい手で押し退けてドフラミンゴが店内に入ってきた。ハンカチで――それもたぶん肌触りのいいやつだ――指先を拭いながら目線で席を案内しろと迫ってくる男をいつものカウンターに座らせた。
汗のしみた三角巾をしめたおばちゃんが目を丸くして「お友達?」と水を置いてくれたので、「まだお友達じゃねぇ」と返して炒飯を頼んだ。もとより財布は出させるつもりだったから、今日は餃子と、小籠包も頼んでやる。向こうで鉄鍋を振るおじちゃんが一瞬口角を上げた気がする。ずかずかと距離を詰めてくるこの男におれの住む下界はこんなもんだと知らしめてやることばかりに気をやって、いつも訪れる店のおとなに温かな目を向けられる可能性が頭から抜けていたことに思い至った。舌打ちが出そうになるのを、隣の巨人の存在を思いだし、やめる。背もたれもない小さな丸椅子に、ドフラミンゴは器用に真っ直ぐ腰かけていた。
「いつも何を食べるんだ」
茶けたメニューを見ながらドフラミンゴは言った。
「炒飯」
「ああ、米が好きだと言っていたな。おれもそれを」
はいよ、と返事をして引っ込むおばちゃんのニコニコした顔を見るといたたまれない気分になってきた。くそ、居心地の悪い思いを隣の男にこそさせてやろうと思ったのに。
「よく来るのか」
「まあ」
安いからな。シャッターばかりになった商店街の、雑居ビルに挟まれた小さな中華料理店は、苦学生のおれでも通える価格帯を守っていた。顔馴染みのおばちゃんは、炒飯をいつも多めに盛ってくれていると知っている。お医者さまになったらねぇ、将来お世話になるかもしれないねぇと。
「まだお友達じゃねぇのか」
気のいい夫婦とはまったく別物の、実に腹の立つ顔でドフラミンゴはこちらを見ていた。コップが小せぇなと、どうでもいいことを思う。
「お友達になれるわけねぇだろ」
たかが落としたものを拾ってやっただけだ。それなのにどう見ても住む世界の違うこの男は友達にしてくれと言う。
「よく行く店で一緒に飯を食う、とかじゃないのか、お友達ってぇのは」
「は?」
「おれなりにリサーチしたんだ。フッフッフ、お前にしかこんなことはしねぇ。だがお友達とはどんなことをするものかと聞いてみれば、一緒に飯を食ったり、買い物をしたり、映画を見たり、バッティングセンターに行ったりするものじゃないかと教えられた」
(安くてうまいラーメン ドフロ)
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