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48手サンプル「後に腐る」ー仏壇がえしー

これは海賊だったと、正しく思い出させてくれる光景だった。鼻をつく臭さが、数刻前まで目の前のパーツたちが生きていたことを物語っている。
「お前の能力なら血を流さずバラせるんじゃなかったのか」
葉巻の煙で鼻腔を上書きしながら、ついそう零してしまうほど。
生き物の息の根を止める行為は興奮する。人間がみな狩猟に駆けていたころからおそらくずっと。
「どう斬るか決めるのはおれだ。弱ェ奴は選べねぇ」
天井、壁、床にあますことなく赤をぶちまけた部屋の真ん中に立つ死の外科医は、珍しく血色のいい顔で、鼻息荒く笑った。海賊めが。似合いの姿に思わず吸い口を嚙み潰しそうになる。
通報があった時にはすでに遅かったのだろう。違法薬物の出どころを調べていたのは海軍のG五支部、スモーカーの部隊だった。赴任して日が浅い部隊は小さな伝達すら行き届かず、事はまったく思うように運ばない。気はいいが仕事が雑で横着な奴が多いからだ。「ここは掃き溜めだ」とは基地長ヴェルゴによる説明で聞いた。
こちらも七武海になって数か月の、トラファルガー・ロー率いるハートの海賊団の潜水艦が目撃されたのは五日前。それからクルーの姿を島内で見たという報告は入っていない。特徴的な揃いのツナギでわざわざ歩いてくれるはずもない。共同で任務に当たるようにとは通達で読んだが向こうからの接触はなかった。これまでも何度かこういうことはあり、だいたいスモーカーが部隊の情報伝達にまごついている間に奴らが大方を済ませている。七武海にしては気味が悪いほど協力的で、無茶な要求もしてこない。こんなに現場で人を斬ったところも見たことがなかった。舌打ちすら生臭いなと、スモーカーは苦々しく葉巻をふかす。

中略

 

「もしかして、感染する、のか」
「カンはいいな、わんちゃん。残念、病気じゃないから感染はしねェ。血液だろうな。ここで遊んでた奴ら、みんな服用してたから」
まだ憶測の段階だが、と前置きしながらもローはキスの前からずっとスモーカーの幹を育て続けていた。ちゃんと話を聞こうとするのに、そうされると耳の横がばくばくして聞き取りにくい。親指と人差し指の輪でくびれを苛められると情けなくも腰が前へ振れた。
「気化した成分を吸っても似たような効果が出るんじゃねぇかな。遅効だし、服用ほどの効果はねぇけど。ああ、だけどこれほど勃つなら十分」
引くほどぱんぱんに棒が張り詰めていた。こんなに勃起したことがかつてあっただろうか。赤黒いグロテスクはしかし凄惨な部屋の中にあってなぜか似合いの光景で。
ローはさっさと臀部を出すと、鬼哭に体重をかけて、こちらに尻をつきだした。
「いや、だがな……」
「うるせぇな。挿れ方くらいわかんだろ? こっちは内服だ、てめぇの何倍も効いてんだよ」
理不尽も可愛く聞こえたような気がして頭を振る。おかしな薬だとわかっていて勝手に飲んだのはこの海賊だし、意味のわからない治験に付き合ういわれだってないのだ。なのに、スモーカーはもう片方の手からもグローブをはずして小ぶりな尻を掴んでいた。自分でないものが体を動かしていると思いたかった。
「スキンもなにもねぇぞ」
「タンパク質がいるっつってんだろ、余計なこと考えんな」
しかし何もかもが小さなこの体に、凶悪といえるまでにそびえ立ったものが入るのだろうか。下手をすると、ここのスプラッタに新しい鮮血を散らすことにはならないだろうか。脈が打つたびに揺れる頭でわざとそれを想像し、落ち着くようにとつとめる。穴を、確認しなければ。
少しも落ち着いていない思考はそう至って、丸い肉を割り開く。尾てい骨がふるふると揺れて、あん、と媚びる声がする。いわゆるヘテロ同士でセックスした際にも見えるそこは、しかし今までみたものとは少し違うような気がした。薄桃色の肉が盛り上がったような口は、キスをせがむ唇のようにも。スモーカーは慎重に指を這わせる。むに、とやわらかなのを何度か揉むと、皺の入った丸い口がきゅっと縮まり、こわごわと緩んだ。啄まれているようだった。なるほどと、そこを広げてみたり、くるりとなぞってみたり、そして押す様にしてみたり。本当に口のように見えるものだ。おもしろいなと繰り返すと、前から急かす声があがる。
「いいから、早くしろ馬鹿やろっ……」
振り向いた頬が赤い。そういえば最初から、前に見たときより健康そうだなんて思っていた。健康どころか、人工的に興奮していたわけだが。
「勝手が違っても知らねぇからな」
いまにもしゃべり始めそうな口に、指を食べさせてみる。痛くても文句言うなよと思ったが、痛みはないようだった。ふと違和感を感じて、ぐいと奥に指を進めると、すぐに肉の洞がもぐもぐと媚びてきて、おまけにとろみが触れる。おかしい。スモーカーだって、尻の穴が濡れないことくらい知っている。つまり、といくらかの可能性を考えていくと、なにか寒気のような轟きが背筋を走った。
「てめェ……これはどうなってる?」
出した声が黒く、怒りをはらんでいることに困惑した。
「さァ……どうしたことだろうなァ?」
はっはっと忙しく呼吸しながら、若い外科医は長刀の柄にすりすりと顔を懐かせ、首を傾げた。
スモーカーの指で探ったものが血でないのは明らかだ。もっとジェル状の、ぐちゃりとした何かがローの内側にはあった。
「だから、早くしろって言っただろう。昨日借りた棒でほぐれてるから、てめェはただ突っ込むだけでいい」
そこがすでに性器であることを、スモーカーは理解した。そしておいて行かれたような気になったことに驚く。海賊の男に。頂上戦争のとき、荒れる現場へ乗り込んでまで、時代の新しい種となる麦わらを逃がし、治療した男に。七武海となってからも無意味な殺戮をせず、時にケガ人を手当する男に、清廉さを勝手に抱いていたのだと。
「海賊めが」
「はははっ、最初からそうだって言ってんだろ。機嫌を損ねたなら謝るよ、昨日は玩具で遊んだだけだ、よさそうな棒がなかったからな」
先ほどとは別の興奮が脳を煮たたせていた。スモーカーは両手でしっかりとローの尻を広げ、いきり立ったペニスをずぬと差し入れた。口のようだと思ったそこが皺を伸ばし、大きくあーんとして亀頭を飲み込むことには腹が立った。
「ぁああっ……デカ、いっ……ぁ――……」
刀がぐらぐらと揺れていた。構う気は起こらなかった。傘のところが入り込み、そのままずずずと竿がローの尻を広げてゆく。小さな腰に、長大な肉の棒が入ってゆくのが、おかしなくらい細部まではっきりと見えていた。目はチカチカと瞬いているのに。それは勝手に抱いていた夢想を自分の手で塗りつぶすことと同じ。つやつやに濡れて腫れた内臓の壁を擦り上げることはかくも気持ちいいものかと。腰が抜けそうな痺れがスモーカーを襲っていた。