一世一代の告白だというのに、コビーの目は呆れてさえいた。だが逃げようにも、「言っておくことがある」と伝えた時点から握られている手は能力を展開できない。
生まれついた時からその他大勢と異なっていた身体の構造について羞恥を抱いたことはなかった。両親が医師であり、正しい知識でもってそのつくりを理解していたこと、またドンキホーテファミリーにおいて、トップであるドフラミンゴが好奇な目で見なかったこと、さらにほかのファミリーにそれを明かさなかったことが大きい。他人と体の関係を持ったおりに揶揄されるようなことがなかったのは、ある程度の選り好みをしていたのと、明らかに自分の方がフィジカルの面で強かったから。
だからこの身体つきのことで恥ずかしい思いをするとは思っていなかった。現在、ローは動悸と体温の上昇を自覚している。
「なんでそれをぼくに教えてくれたんですか?」
静かに、言葉を選んでいるようだった。ローが思わせぶりな言い方をしてまでこのひみつについて打ち明けねばと思った、八つ年下の若い海兵とは、互いのことを、友人や職場の人間などと培う親しみとは違うものを抱く存在だと共有するようになってから、意外と長い月日がたっている。その間に世界情勢は動き、コビーは出世もした。元々辞表を出しているとかいうその扱いがどういうものなのか、組織外の人間であるローにはわからない。
コビーは今、その白いコートを椅子の背に預け、襟にマリンブルーが線を描く演習着で、ハートのジョリーロジャーが印字されたパーカーとジーンズというラフな恰好で執務室を訪れたローと、ソファで隣り合って座っていた。
「なんでって」
「だって今までは黙っていたんですよね」
咎めているつもりはないです、とコビーは付け足した。確かに、言ってこなかったし、その必要にかられない距離を保ってきた。長いこと。テーブルに並べられた珈琲がふたつ、まだ湯気を立てている。片方はミルクの溶けたやわらかいブラウン、もうひとつは混ざりけのない黒。早く飲んだ方がいいと思う喉は乾いていて、指先が心なしか冷えている。
ローの自認は男性である。上半身のつくり、筋肉の付き方、体毛の生え方などからしてもそうだが、生殖器のみ女性のそれが備わっていた。最初からそうだったので困ったことはない。戸惑ったことは、まぁある。今もどちらかと言えばそれに近い、かもしれないが、明かすことを決めたのはロー自身だ。
「選択肢がねぇような気がしたんだ」
「ローさん、もう少しわかりやすく」
後に世界を揺るがした事件に関わった頃は、伝わらない意図について彼は眉を下げるだけだった。それなりにそこそこの経験を積み、年も重ねた今は素直に聞き返してくるようになった。大きな進歩だ、コビーにとっても、ローにとっても。
「お前がおれとこうして時々会う時間を作ることを続けていくとして、おれは何もかもわかっていてここに来るのに、お前は肝心なことを知らないままなのは、進むにも戻るにも選択のしようがねぇなと、思ったんだ」
淹れたての珈琲を並べて置いたとき、コビーは隣に座るついでにローの唇に自分のそれで触れた。それはこのソファに座るとき、茶と菓子でもてなされるとき、ローが帽子を置いていることを知っているから。何の邪魔も入らない額も鼻もすぐに触れられると知っているから。ひとつの違和感もなく。日ごろ手入れが行き届かずひび割れていることの多い唇が湿るころ、決して強引な様子はなく、ごく親し気に濡れた舌が戯れてきたのを受け入れて、ローは今話そうと、思った。
もしかしたら、男を抱くことになると覚悟さえしているかもしれない年下のことが、急に不憫になったのだ。
「ぼくが戻る選択をする可能性を、ローさんが勘定に入れていることに関してはこの際目を瞑りますが」
「どういう意味だ」
「はっきり言った方がいいですか?」
キスをするときにはそっと重ね、大事な話を始めたときには逃げないようにと掴んでいた手を、コビーは結び直した。手の平と平を合わせて、自分の指と文字の刻まれたローの指を交互に絡ませ握る。
ローは首を横に振った。野暮だと思ったから。
「では言わないでおきます。それよりも今は、ローさんが先に進んでもいいと提示してくれている、と取ったぼくが間違いでないかを、確認したいです」
「お前もたいがいまわりくどいな」
「誰かさんに影響されたのかもしれません」
生意気、と苦く思った言葉は口の中で甘く溶けて消えた。
「そう取って構わねぇ」
タイミングというのは理由付けの難しいもので、ある日突然やってくる。それはすでに、この青年と過ごす時間を積み重ねてきた中で、何度も思い知らされたものだった。だからローは素直に今がそうなのだと、だから大事な話をしたのだと。
手を絡めたまま、コビーは背中をソファに沈めた。
「何か事情があるんだろうとは思っていたので。ただそれでも、ローさんはぼくのことをずっと子どもだと思っているんだろうなって」
心底安心したような、長い息が天井に上ってゆく。
「生意気な若造ぐらいには思ってるが」
「それは否定しません。しませんから、その」
「なんだ」
「見せていただいてもいいですか」
素直さは凶器だ。特にローのような人間にとってはとっておきの。収まりかけた動悸が再び打つ。「今」が急にきたものだから、その先を想定していなかった。コビーは背を起こし、冷めかけたやわらかな色のカフェオレを二口啜った。ローの方へ向き直り、つないだままだった手を強く握りしめた。
「だってぼくのは、見たことがあるじゃないですか」
ある。確かにある。青年だって人間だから、相応に興奮してしまったことがあって、手と口は使ったことがあったのだ。
「全部見たいです、あなたのひみつ」
できれば珈琲でなく水が飲みてぇなと思った。だが許されないくらいの圧が、熱を持って、青年から発せられている。ほとんど無い距離でそれを浴びたローは満足して笑った。戻る選択肢などコビーがとっくに捨てていることを、知っている。それでも時に、直に突き付けてもらいたくなる捻くれた自分を、この率直な男がいつも解いてくれる。恥ずかしさはもうなかった。
「いいぜ、全部明け渡してやる」
将校の仮眠室には何度も入ったことがある。寝不足の時にはいつもローがここのベッドを占拠するので、いつの間にか掛け布が手触りが柔らかく毛足の長い毛布に替わり、枕カバーはふわふわと雲のような材質になって久しい。
子ども同士のように手を繋いだまま、二人ベッドの真ん中に座った。まだ日の差す明るい寝室。振りほどいて服を脱ごうとしたローをコビーは制止して、また唇をくっつける。正座の形をしたローの膝に片手をついて、下から押し上げるようにしてキスをした青年は何度も膝を撫でた。焦らないで、急がないで。見聞色の覇気に優れた男は時折、声もなしに話しかけてくるようなことをする。きっと幻聴だ、願望込みの。
舌を絡めると背の低いコビーの方へと唾液が下る。それを飲み込みながら息を継いで、ローの舌の表を、裏を、丁寧に舐めるたび、コビーは手を握り直す。それは末梢の熱を上げ、血液に乗って体の中心へ戻り心臓の血液に混ざって高まる。その循環を想像してローはいつも息が上がってしまう。請われて啜られているのに、餌を待つ犬のように舌を出して閉じない口端から涎を零し、都度舐め取られて頬まで震える。裸をさらすために、あらかじめ空気を濡らして温めておくこの律義さが、好んだ若者の官能。
痺れてきた膝を横に崩したのを合図にコビーが手を解いた。ローより先にその指がデニムのボタンをはずしてしまう。ああオトコのコだなと妙に感心した。ウェストに手をかけ、尻を浮かせて下ろしながら、崩した両足を前へまわして立てた。コビーの視界には閉じた両膝が幕の役割を果たすだろう。そこが左右に開くことへの期待でごくりと唾を飲んだ音。だんだんおもしろくなってくる。娼婦のような気分になって、至極ゆっくりと、片足ずつ抜いてやった。素足の脛には体毛が生え揃っている。髪や腕と同じ、毛は色も濃くしっかりしている方だと思う。舞台の幕を開けるように、両膝に手を掛けて雄の脚を割り開く。現れた脚の付け根で、まだ決定的なところを隠してある布はサテンのような艶のある黒い三角。腰骨で結んだ細い紐が形を保っている。
「興味津々だな」
一部始終をまばたきもせず見つめていた青年に笑いかけた。パーカーの裾を捲ってやると、そこだけ切り取ったようなオンナの器官が。
「当たり前です。大事なことです、目をそらすわけがない」
ローもまた、コビーの顔から目が離せなかった。やわらかく笑んだ口元はまだ唾液に濡れたまま、頬は紅潮してリンゴのように瑞々しく、純粋に興奮が見て取れた。何気なく這わせた目線が紺のスラックスの膨らみを捉える。
「まだ見てもねぇのに」
「見たらもっと大変なことになると思います」
正直で清々しい。ローは左右の紐をいっぺんにつまんだ。笑いが止まらなかった。拒否されない、揶揄されない。ローより小さな身体で、大きな安堵を広げてくれているから、その上でローは自由に振る舞うことができる。
「しっかり見てろよ。もう、濡れてるから」
えっ、と驚いた声にかぶせて紐を引いた。湿った布は局部に引っ付いていたが、引っ張られ、しっとりとはがれてシーツに落ちる。その音は布に染みた体液の重み。
「どこまで女性器ですか」
目を合わせて真剣に聞いてくるものだから、もう可笑しくて仕方なかった。全部、中まで。密やかな声で告げてやる。コビーは遠慮することなく、ローが明らかにしたところを観察した。ローが両手で少し開いてやると、もったりとした泥濘の入口がわずか広がる。
「さわる?」
できるだけ下品に見えるように、下から覗きこむように。立てた膝の片方で、コビーの頬を撫でた。
「おれだってお前の、さわったからな」
ぐうと喉が鳴ったところを初めて見たかもしれない。コビーは隠しきれない興奮を呼気に乗せて吐き出していた。ルーティーンの運動後でも、拳の打ち込み後でも、演習後でもない、自分の暴露に対して上がっている心拍。気分がいい。足を伸ばしてつま先で、正直な股間に触れた。若い雄は窮屈気に解放を待っている。
「大変ありがたい申し出ですが」
「なんだ不服か?」
「いえ、不服はひとつもありません。ですが、さわらせていただいたら、手を引ける自信はありません」
引く必要などどこにもない。返事の代わりに足の指で、膨らみをつまんでやった。もう青年も何も言わない。右手の指先を揃えて爪の長さを確認し、開かれた膝の間に大胆に入り込んで、貝の形に例えられることもあるそれの表面を撫でた。
「んっ」
繊細な部位を他人に触れられた体はじゅわりと蜜をにじませる。痛みを失くすための反応が、快楽を引き出してほしいと期待を溢れさせる。青年はますます目を開いて、また撫でる。ぬるりとすべった指が、体の内へと続く入口の縁をわずかに引っ掛けた。それだけでローの太腿が大きく跳ねる。こんなに慎重にさわられたことはなかった。その辺の男なら、真っ先に淫芽を狙って擦り、すぐにその入り口を暴こうとする。
「ちゃんとさわれ」
「ちゃんとって、どうですか?」
「あっ……そこ、その丸いところ、押して、あんっ、お前の亀頭と同じだから、擦って、つまんでも」
コビーは言われた通りに指を操った。小さな突起を押して、すりすりと指を往復させて、人差し指と中指でつまんで。それを繰り返す。ローの顔を時々見やって、苦痛がないことを確認し、また視線を戻す。繰り返す。
「あっ、ぁあ、こび、あっ、ンん♡」
「わ、すごいです」
「ひあっ」
亀頭のかわりを可愛がられるたびにじゅん、じゅん、と湧き出ていたものが、とうとう垂れたらしい。突然反対の手がそれを掬って入口になすりつけた。ローは飛び上がる。青年は興味の赴くまま指にまとわせた体液を中へ戻した。にゅる、と侵入した指の分、また新しく水気が溢れる。抜いた指でまたそれを掬って、コビーはローの中に押し込める。
虐める気はないだろうに、掬ったものを膣壁に塗り込め、擦りつけては出て行く指は罪深い。浅い刺激にますます水気は増し次々零れてしまって、また、同じこと。ローはそろそろ横になりたかった。力の入った腹筋が丸まって隆起していた。その硬さと、アンバランスな内側の柔らかさ。粗相をすくって中に戻す、青年の指は少しずつ侵入を深くする。陰核を揺する指は触り方を教えた時からずっと、同じループで甘く刺激を与え続けている。
「あぁ、や、背中つらい、ふうッ」
「あっ、気づかなくてすみません。楽な姿勢にしてください」
コビーはそっとローの肩を押した。ようやく背中が伸びてほっとする。胎の奥へとつながる道もまっすぐになって、より深くへ侵入を許す。シーツに染みる前に拭われたぬめりが、また、中へ。びくりとローの体が鳥肌を立てる。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃ、ねぇようにっ、見えるか?」
「もう一本、指入れてみてもいいですか?」
「ははっ、さわり方を知らねぇくせに、広げるってことは知ってんのかよ」
「子どもじゃないので、ぼくも」
力加減がわからないからさっきは聞いたのだと、きまり悪そうな顔になったコビーは大層可愛かった。ローはその顔を見上げて舌を出した。こっちの口も構ってくれという意図は、言わずとも青年を動かす。
舌だけを擦り合わせる。肉の薄いコビーの舌は包むようにローのそれを舐める。鼻がぶつかって、角度を変えて、互いに開いたままの眼で欲を絡めて。今度はローがつたってきたものを飲み込んだ。んく、と嚥下に合わせて引っ込みかけた舌は吸い付かれ引っ張られて、口の端から唾液が零れた。
「わんこみてぇ」
「ローさん、犬好きですもんね」
こうなってくると揶揄も意味をなさない。わかっていてつい、そういう言い方をしてしまうのはもう性分だった。やり返されたなと目をそらす。コビーが上機嫌に笑う。
「では、わんこらしくしなくては、です」
「は?あっ、やめ、んあァっ」
厭らしいキスをしたのと同じように舌を出したまま。頭を下げたコビーはさっきさわり方を教わったばかりの肉芽を舐めた。一際高く声が上がったのは見逃してはもらえない。ひと舐めしたところの反応を確かめ、青年は膨らんできた突起を舌先でぐりぐりといたぶる。すぐ下の、洞の口があっという間に洪水を起こす。どぷりと涌き出た悦楽は音を立てて啜られた。
「っぁアっ♡だっ、やめ、ふンン~~っ」
じたばたと暴れる長い足は、それでも桃色の頭を傷つけまいと閉じることはない。口のまわりを濡らしてまたコビーはローの弱い尖りを舌で捏ねる。跳ねる体に追い討ちをかけるように、泥濘に指が二本忍ばされる。ずぬと侵入されるも痛みはなく、かき分けるように壁を広げられローは下腹を震わせた。犬はそんなところに指を入れねぇ。だが嫌みどころではない。じとじとと湿り続ける狭い道はささくれのない指にくすぐられると悦び戦慄いてすり寄った。後で与えられるであろう幹に見立てた指を、膣がきつく抱き締める。よしよしと慰めるように擦られて、同時に陰核をずるりと舐められて、胎の奥で渦を巻いた灼熱が、脊髄をかけ上がった。止めようのない押し上げに顎が反る。
「あっ、いっ、くぅぅ……っ!」
中は狭くうねって侵入者を締め付けながらも、じゅくじゅくと熟れて蕩けている。断続的に跳ねる腰と同じ調子でぎゅう、ぎゅう、と締まる膣壁が、絶頂を青年に教えていた。咥え込んだ指をふやかすほど滴るものを、広げた舌で舐め取られる。
「いって、いってるから、ま、って、ァうう……」
耐えきれず大腿で挟み込んだ頭は喉を潤す獣のようにそこを啜った。中の収縮がおさまるころ、やっと股座から抜け出して、コビーは手の甲で口を拭う。
「わん」
こんな大人びた冗談が言えるタマだなんて誰が思っただろうか。その匂い立つ表情を見られるのは自分だけ。ローは全身を赤くしている年下の男を見て舌なめずりをした。
「…はっ、猛犬じゃねぇか、こんな興奮しちまって」
手を伸ばせば信じられないほど凶暴なものが青年の真ん中で育っている。
「興奮するに決まってるじゃないですか。こんな、勝手にひみつを分けられて」
いつもタイミングが掴めなくて戸惑うんですよと、火傷しそうな息とともに耳に吹き込まれた。そこから覇気でも流し込まれたようにコビーの声は脳を満たす。最高だ、おれの男だ。伸ばしたままの手で前立てをかき分けて、取り出したものの先へ腰をなすりつけてやる。互いの立ち位置は隣だと共有してから、こんなにぴったりと密着したことなどない。ただ、今日がその日だっただけ。
「いれてくれよ。お前がこんなにしたんだ」
じわじわとまた滲んでいた愛液を鈴口に擦りつけるとコビーは呻いた。ローは長い指に自分の股から湧いて出たものをまとい、括れに滑りを与える。びくりとまた硬さを増すのがおもしろく、そこをぬるぬる可愛がってやる。普段あんなにさわやかな青年の、こんなにも猛った血流。
「あんまりさわると、出て、しまいます」
こめかみを汗がつたっていた。市民の平和と安全のためにかくものと同じ。だが彼の汗腺を開かせているのは自分の乱れた指先。垂れた塩気の雫が白い襟に沁みるのはたまらない。ああとんだ変態だなとローは自嘲した。
「ならいれろ。出す前に。ここに、ここだけ」
待ちきれないひみつの入口に押し付けると、制御できない動きがぱくりとまるい先端を食んでしまう。コビーの眉間に皺が寄る。だめですってば、出るから。なかなか聞くことのない、つかえた吐息に聞く焦り。淫らなことに手を染めそうにない男が自分の手管のせいで自分に劣情をぶつけたがっている。柄にもなく胎の奥が切なくねじれて苦しい。はやく、と急かす沼をごまかす様に何度か秘口で噛みついてやると「スキンありますから」とわずか理性の残った声で言われて離された。なんだ、意外と余裕あるじゃねぇか。二度目の感心。年下ながら頼れる。そんなところも。
「さっきも言いましたけど、もう、手も足も引けませんからね」
こっちも。わざとらしく俗な言い方で薄膜に包んだ下半身を示して、コビーは今度こそどろどろに沸いたローの密壺に自身を潜らせた。
「んんぅぅっ♡あ、はぁ、あちぃ、あっちぃな、くそ」
見立てていた指などより重く硬い熱芯が内臓を灼く。肉が溶けてなくなりそうなほど。じゅっと音がしそうな柔壁は驚き悦んで懸命に若い雄をしゃぶった。ぐ、ぐ、と唸る喉仏が間近で見えている。伏せた瞼で震えるピンクのまつ毛はいつもより赤が濃い。可愛いうえ色っぽいなんて。まったく、もったいないことだなんて思わない。世の中の大勢に愛される男が自分に夢中だと悦に入る。
得意気は顔に出ていたらしい。よそでさらさない顔を見せているのはお互い様。緩んだ口元にコビーの目線が刺さっていた。くつくつと転がる笑いのままにローは首を持ち上げる。正常位では少し届かない唇を食べるために。
「んむっ、あ、ぁふかいっ」
キスをするには奥まで入らねばならなかった。ぐつりと割り開かれたところはぐずぐずに溶けた性感のるつぼ。刺激されて全身に火花をまき散らし、さらに温度を上げる。口と口は舌で溶け合って、結合部は境目がわからなくなって。隔てた膜の感覚はないのに、中を埋める確かな圧で、コビーの形が掴めてしまう。
「い、たく、ないですか」
「ないっ、きもちいっ……ぁんん♡もっと、いれ、ろっ」
硬い股関節が恨めしいと思った。骨がはずれそうなほどに広げた脚でしがみつく。教えられなくとも知っている、本能の動きが青年に腰を振らせている。抜いては収め、また抜いて、もっと奥へ。正直、ただの律動をこんなにまで感じ入ったことはない。童貞ではなさそうだが、コビーが手練れているわけでもない。ただ丁寧に抱かれているというだけ。ひみつを分けたのが、この男だというだけ。
「ぜんぜん、もちそうにありませんっ」
くっつけた口はあっという間に離れてしまった。もっとキスがしたい、そう思っていると互いにわかっているのに、ばちんと音がするほどの運動が止まらない。激しく何度も擦り上げられた媚肉は蜜を噴き続け、青年の幹を頬張る縁を白く泡立たせた。
「じゅうぶんっ、んアっ、だ、あっ、め、もういくっ」
ぐしゃっと飛沫が上がったような感覚、胎の奥が追い込まれる。交差させた足首は、小刻みに震えるコビーの骨盤を感じ取っていた。すぐそこに頂が見えて、ローは必死にコビーの手を探した。
「てぇ、つなっ、げっ、ぁ、やっいくから、いくから、つないで」
「ローさん、ここです」
わき腹をくすぐるように動いていた手を取られた。笑っている、青年が。はにかむようにして。死を刻んだ指は生きることに前しか向いていない指と絡まって単語がほどける。汗に濡れた手の平は滑るが吸い付く。触れているところすべてから、肌が肉が熔けて弾ける。ぎゅっと力の入った指に挟まれてローの指が痛んだ。おかえしとばかりにひみつの孔が締まって、摩擦が生み出す悦楽が膨らむ。
「ぁっぁっ、あぁァぁっ……っ♡」
握ったままの形で固まるほど手に力を込めてローは頂から飛び降りた。散る涙、白む視界、吸った息が吐き出せない。体の内がびりびり痺れて、カウンターショックを失敗したときのような、乱れた電気が体を走る。燃え滾る窯の一番奥で、膜の中、吐き出される灼熱。もっと深くへ送り込むようになんども突かれて、ローはその度震えて声を上げた。
昼の陽気に似つかわしくない、仮眠室の空気。汗でぬれた上衣が冷えるころ、やっと少し体を離した二人はごろんと大の字になって笑った。
「とんだ犬だった……」
「かわいい犬でしょう」
そう笑った鼻の頭がまだ興奮の名残で赤らんでいて、もう一回くっつきてぇなと、握ったままの手をローは結び直した。どんな心づもりでスキンを買っていたのか、とか、今度は青年のひみつをわけさせるつもりで。
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