意識が浮上した瞬間に、まだ夜明け前だと直感した。目覚めはすっきりしないし体が重い。早めに寝たはずが、ギリギリまで高められた熱がまだ燻っている。
軽くスマホの画面をタップすると4時。
むしゃくしゃして寝返りを打つと兄の寝顔があった。薄く開いた口が規則的な寝息をたてる。この唇がこんなに美味しそうに見えたことがあっただろうか。
たっぷり4日かけて焦らされているからか、体も頭もふわふわしている。あの隙間に舌を通せば、眠りにつく前、最終日の今日をどんな風にするか紡ぎながら絡められた兄のものが潜んでいるはずで。今ならエナメル質の歯列の門も開いている。
吸い寄せられるようにそっと自分の唇を引っ付けた途端、後頭部をがばりと掴まれた。
「っんん?」
覆いかぶさられて舌を突っ込まれる。さっきまで空気に触れていたせいでざらついた表面。その感触を自分の舌で感じると、じゅわりと唾液が湧いて兄のものを湿らせた。頭をぎゅうぎゅう押さえられたまま、空気の入る隙間なくつけられた唇の中で激しく舐め上げられる。普段ならがっつきすぎだと押し返すのに、今朝は両腕に力が入らない。
「んんっ…ん、んーっ」
いつの間にか絡められた兄の足は、付け根がとてつもなく熱くなっていて、昨夜の言葉を思い返してしまう。
もう、するのか。
もう、なのか、やっと、なのか。酸素が足りなくなって混乱し始めた頭は、欲を持て余した体と一緒になって続きを欲してしまう。まだ明け方だというのに後孔が疼く。
別に普段から受け入れる方ばかりなのではない。どちらかというと兄を組み敷くことの方が多いはずが、水曜から躾けられた体はすっかりその気になってしまっていた。
「っは!っ、はーっ、はーっ」
解放された口から思い切り酸素を取り込む。
同じように肩で息をする兄が口を拭いながら笑った。
「そんな楽しみだった?」
「……うるさい」
お互い何も身に着けないままの体はちょうど熱の中心部同士が当たっている。お互い痛いくらい勃ち上がっていて憎まれ口を叩く余裕もない。
「わり、俺も楽しみすぎて調子乗った。ちょっと早いけど腹ごしらえして、シャワーしてからゆっくりやろ」
「朝からやるの?」
「最終日は朝からやっていいんだって」
枕元のスマホを開いた兄は参考にしていたページを開いているのだろう。長い指が画面を滑る様子が自分の肌をたどる動きに変換されてしまって、一度きつく目をつむった。
「タイマーもかけなくていいし、じっくり時間かけて、朝からやっていいって。そのかわり」
「そのかわり?」
「挿入後30分は動いたらダメなんだってよ」
「……」
ここにきてまだ焦らされるのか。
ふとよぎった思いに呆然とする。
下手に最終日を休日にあててしまったおかげで、今日はそれしかすることがない。やっと最後までできるという期待感は膨らみきっている。一刻も早くこの状態をどうにかしてほしい。5日前に兄に対してしつこいと言ったことを思い返すと目も当てられない。
「むかつく」
ひとり頭の中で忙しくしているのを知ってか知らずか、兄は服を身に着けてキッチンの方へ行ってしまった。下着の中にしまうのも申し訳ないほどのものを半ば無理やり押し込んで、後に続く。
昨夜の余裕ない顔をひっこめた兄が空っぽの腹を満たしていく横で、薄めに淹れたコーヒーだけ流し込む。湯気越しに、少しずつ遅くなってきた夜明けの空を眺めた。明るくなっていく外の様子とは反対に、部屋の雰囲気だけがずっと夜をまとったまま。兄が野菜を咀嚼する様も、パンくずのついた指を舐め取る様も、すべてがこの部屋の温度を上げてしまうから、直視しないようにして食べ終わるのを待った。
連れだって浴室に入ればあとはなし崩しだ。ぬるめのシャワーが体表面の熱を流していくなか、舌を絡ませ合うと体内から新しい熱が生まれる。
「挿れるのはベッド戻ってからな」
「そういうのいちいち言わなくていい」
ここぞとばかりに出してくる長男感にいらついたものの、ローションボトルを取った兄が尻の間を触り始めたのを今日は止めなかった。いつもならそこの準備は自分でする。兄にやらせるとこっちが恥ずかしくなるくらい嬉しそうな顔でするのが気に入らないからだ。だけどそんなことを言っている余裕は正直ない。昨夜入口をくすぐられただけのそこを解さなくては、ほしいものが得られない。
「5日ぶりだからゆっくり……な」
「うるさいよ、早くして」
軽く兄の足を踏むとあやすみたいに笑われた。壁を背に片足を浴槽の淵に上げると、どろっとしたものをまとった指が一本入口をくぐる。久しぶりに異物を受け入れるそこはやはり硬い。ゆっくりと息を吐きながら兄の首に腕をまわしてバランスを取った。
空いている兄の手が胸筋の下側をそろりとなぞる。驚くほど体が跳ねた。楽しそうな兄の表情が近くで見えて腹が立つ。
「昨日もだったけど」
「んっ…ふ、う、う、あっ」
脇まで筋肉の淵に沿って何度も線を描くようにされると息が漏れた。皮膚をなでられる感触があばらの骨を伝って内臓に響く。
「ほんとにここ、敏感になっちゃってさぁ」
「っ、へ、んな、触り方する、な」
腋窩をぐりと押されるのと同時に、尻に埋められた指が奥まで入り込んで、腰がじいんと痺れた。慎重に中を探る指に、狭さを確かめるように前後左右を圧迫されると、あっという間に下半身が溶けそうになる。
「っ、ん、ふっ……く!」
湯を浴びっぱなしだからか、興奮しているからか、少し赤くなった兄の鼻が、眉間に触った。そういえば1日目もこんな風に鼻を寄せ合った。あの時なんともなかった拙い触れあいも、今はすべてが性感を高めるものになる。
自分と似た色の赤目で見つめられながら、増やされた指を受け入れるために大きく息を吐く。
「やっぱりお前まつ毛長いね」
「だか、らっ……そ、いうの、いいって」
「そうでもないだろ。今締まったし」
言い返そうとしておかしな声が出そうになったのを飲み込む。2本になった指が壁を広げるように大きく動いて、足されたローションが中で音を立てた。やっと触ってもらえた内臓が意思に反して勝手にひくひくと収縮する。
脇をくすぐっていた兄の手が下へおりてきて、熱く芯を持った陰茎を包んだ。
「あっ?ちょ、さわ、んな」
「なんで?」
「すぐ出そう…」
ゆるく握られただけで重たい陰嚢から今か今かと待ち構えていたものがこみ上げてきて、思わず兄の手を制する。兄がその手ごと茎に絡めて上下に動かした。
「もう我慢しなくていいって。いいぜ先に出しても」
「うっ、あっ、あ、はな、せっ…」
散々溜め込んでいたものが一気に尿道を駆け上がる。下腹に力を入れたものの、そんなのは何の抵抗にもならなかった。
握る手指に擦りつけるようにかくんと腰が動いて、根元から頭まで熱いものが迸って白く爆ぜる。
「―――っあ、あ、んんんっ」
口を塞ぐのも忘れて兄の首にすがっていた腕に力が入った。まだ最初の絶頂なのに、久しぶりの感覚に膝が震えて体幹が揺れる。同時に中の指も動かされて、時間をかけて白濁が零れた。下腹から全身に広がる充足感。味わいたかったものを与えられたものの、そんなものでは全然足りないと空腹を訴えて腹の奥が震えた。
「なぁ、気持ちい?」
兄と至近距離で目が合う。薄い色のまつ毛に水滴が乗っていて艶っぽい。何本も綺麗に生えそろったその間から、蕩けた赤に見つめられて口が勝手に言葉を紡いだ。
「気持ちいい……」
「珍しく素直じゃん。かーわい」
「そ、ゆの、いいって。兄さん、早く」
これ以上取り繕っても仕方がないので素直に続きを促す。兄もさらに上乗せして揶揄するようなことはせず、内壁を広げることに集中した。
低めの温度に設定したはずの湯でのぼせたようになった頃、ようやくベッドにもつれ込む。
拭き取りきれていない湿り気のまま肌を合わせるとしっとりと馴染んで引っ付いた。体温が上がって十分に蕩けた尻に、まだ一度も達していない、重く張り詰めた兄のものが宛がわれる。
「お待たせ。お前に言われた通り、めちゃくちゃ我慢したからさ、兄ちゃんの挿れてい?」
さして許可を取る気のない顔は餌を眼前にした肉食獣だ。この一連の行為が始まるきっかけになったこちらの言葉を使って、ぐりぐりと入口を刺激してくる。そこが広げられる感覚に、侵入してくるものの大きさを想像して、直腸の奥が生唾でも飲んだようにゴクリと動いた。
「もうそんなまどろっこしいことしなくていいから」
「うん。だから?」
「……」
トドメに焦らしているのだろうが兄の額には大粒の汗がいくつも見える。兄だってとっくに限界であることは間違いない。唇の端から火傷しそうな吐息がふぅふぅ漏れている。こめかみから顎につたった汗がぽたりと、鎖骨のあたりに垂れた。
「挿れていいって、言えよ」
「……っいれ、っああっ!」
て、まで言い終えることはできなかった。口が希望の形に動いた途端、兄がその体格に見合った凶器を一気に押し込んできた。背中がぐぐと反って、思わずそれだけで絶頂しそうになるのをギリギリで耐える。そのまま幅の広い上半身が倒れ込んできて、荒い息が耳をくすぐる。
「この、ままっ…30分な。も、ちょい、緩めて…」
「そ、んなことっ…いわれ、て……う、あ、ア」
久しぶりで力の抜き方がよくわからない。ぴたりと密着した内壁は、兄の逸物の拍動まで感じ取って、その度に奥の方からきゅうきゅうと蠢いた。
下腹の奥が熱い。伸し掛かっている兄が額に、頬に、耳たぶに口を寄せてくる。唇が触ったところから体に毒が広がっていくような、全身兄に包まれていくような感覚。
「うっ…ん、ふ、」
改めて兄の形を覚え込まされるように、めいっぱい広げられた内臓は収縮することをゆるされず、ひたすら肉棒にすがることしかできない。
なかなかゆるむことができずに強張る体を兄が大きな手の平で撫でた。
「ちから、抜けって」
「いま、やってるっ……」
「あっついの、ぎゅーぎゅーされてる。我慢が足りないの、誰だって?」
「うる、さっ…んん、」
兄がしゃべっても自分がしゃべっても、音の震えがダイレクトに皮膚を揺らす。後孔はゆるむどころかますますうねって締まる。そうやって勝手に壁を擦りつけて、またその感触でさらに尻が疼いてしまう。早く終われ30分。
不自然に深呼吸を繰り返してもまったくリラックスできない。そんな俺をあざ笑うように兄の手が下腹を撫でた。
「ここ、お前の好きなとこ。もうちょっと奥まで、今入ってるの、わかる?」
「や、め」
「なか、きもちーな」
兄が指の腹に力を入れて、そこをぐりとへこませた。
「っふ!んう、――――っ!」
抉れた下腹が内側で発火して、隙間なく兄の陰茎を包んでいた腸壁が一気に燃える。さらに力が入ってねじれる。腰から脳まで高温が突き抜けて、視界が焼き切れた。
風呂でされた時と違って出したような感じはない。それでも背中とお腹がびくびくと痙攣して止まらなかった
「ぐ、っ」
兄が奥歯を噛みしめる。飢えた狼みたいに喉が鳴って、さっきまで優しく体を撫でていた手が俺の肩に爪を食い込ませた。
どちらのものかわからない荒い息が鳴り続ける。あと何分、なんて聞く余裕は、もうどちらにもなかった。
「すご、なか、いったよな」
「ふっ、う、う、……っ」
「わり、ダメだ、止まってらんね。動いていい?」
頬をべろりと舐めた兄のものが中で一層膨らんで、その圧迫感にただうなずくしかできなかった。
最後の最後でお互いのタガが音を立ててはずれた。厚い肉で舐められていた頬骨に嚙みつかれるのと同時に、奥まで入りっぱなしだったものが勢いよく抜かれて視界が明滅する。
「あっ、ちょ、いきな、りっ……ア、んんっ、あっ」
振り落とされそうな気持ちになって必死で兄の首にしがみつく。頬の肉を噛みちぎられそうになりながら、また奥まで穿たれる。どすん、と重たい音がして、さっき絶頂を迎えた直腸がまたすぐに高みへ押し上げられる。
穴でもあけられてしまうのかと思うほど力強く刺されてわけがわからない。張り詰めた兄の陰嚢が尻の肉をばちんと叩くのがわかって恥ずかしい。
「あ――――、出そう。出るわ、出る」
噛まれたままの頬は痛みを通り越して感覚がなくなっている。何度も繰り返される言葉に、兄が切羽詰まっているのがよくわかって、正直な体が大喜びでまた茎を締め上げた。
動物の交尾みたいに何度も腰を動かしながら、ずっと耐えていたものを兄がようやく中でぶちまける。入口から奥の方まで満遍なく熱い精をかけられて、その刺激でまたこちらも昇り詰めた。
「ん゛ん――――っ、うあ、っあ」
馬鹿みたいな力でお互いの体を抱きしめ合って、長い長いそれに感じ入る。もう高いところから降りることはできなさそうだ。結構な量を吐き出してなお、兄も自分も張り詰めたままなのを確かめて、熱に浮かされた声で続きを強請った。
「兄さん、もっと」
横目で見た時計はまだおやつの時間にさえなっていない。兄は獰猛な紅い眼で弧を描いて、歯型のついた俺の頬をまた舐めた。
その後は弱いところをひたすら責められて、あっという間に頭は馬鹿になった。喜ぶ兄に乗せられて、喉が枯れて声が出なくなるまで何度も続きを欲しがってしまった。
前も後ろも目も当てられないほどどろどろに達して、濡れたシーツに倒れるのが気持ち悪くなったのがお昼頃。2人でもう一度シャワーを浴びて、新しくなったシーツで空腹のまままた貪り合った。
夜になる頃には足腰がまったく立たなくなって、ようやく体を離した。とろとろと眠りに落ちていきながら、兄が満足そうに笑う。
「またやろうぜ、ポリネシアンセックス」
ぼやける意識の中で思い出される、5日間燻ったままだった体。時間を決めて最後までしない、というのは確かに平日が楽ではあったが、何となくすっきりしない頭で、日々の業務の集中力を欠く結果になってしまった気がする。
「もうやらない。仕事のある日にやることじゃない……」
毎回こんなことになってしまうのでは、昼間の生活を整える、という目的は達成されない。お互い長期で休みが取れたらまたしてもいいよ、ともぞもぞ呟くと、兄がそれはそれは嬉しそうな顔になったので、力の入らなくなった手で頭をごつんと小突いた。
コメントを残す