爪先にごつんとぶつかる悪趣味な尾。古ぼけた畳が足の裏をチクチク刺している。怖くて見れないけどたぶん弟の顔はひきつっていて、変な汗がつるりと背を流れた。
ようやく呪いの十二支をまわりきった。新年早々ひどい目にあったもんだ。その手のプレイはだいたい嗜んだことのある俺たちも、今回はさすがに懲りたから、謝罪も兼ねて二人で神社に挨拶に行った。
あの日とは打って変わって参拝者の少ない静かな拝殿。横に並んで紅白の鈴緒を一緒に握る。もちろん悪かったのは自分たち。家まで待つべきでしたゴメンナサイ。特殊なシチュエーションに燃えてしまう変態なんです。だからって神様が平凡な人間をつかまえてやりすぎじゃないですか……謝るつもりがつい怨み言。がらん、と咎めるように鈴が鳴った。そのまま体が急にバランスを失って傾く。すぐ側にあったはずの弟の手を掴もうとして空振りし、ドンと尻もちをついた。
「いってぇ……」
「……どこ?ここ」
ぐるんとまわった視界に耐えられず目を瞑ると、横で弟の声。気持ち悪さをこらえながら周りを確認する。古ぼけた畳に障子。どこかの和室のような。奥の方に、ぼんぼりみたいな明かりが二つ、じゃらじゃらぶら下がるきんきらと、座る仏像、丸い鏡。
「中だね。たぶん、本殿の」
お前はなんでそんなずっと落ち着いてるの。俺が順応性低いの?まぁここまできたら俺だって多少の事では驚かない。つまりあれだろ、招かれたってことだ。呪いをかけた神様ってやつに。ぶんぶん頭を振って、今度はしっかり弟の手を握る。弟はやれやれと天を仰いだ。お題はクリアしたんだ、どんとこい。
気合いを邪魔するように光る鏡。ぞわぞわと体が変わる感じがする。頭の上がくすぐったいような持ち上がるような……弟が同じ場所をさすっている。その黒髪を押し上げて、同じ色の、滑らかな毛並みの三角形。見えなくともそれが何だか察した弟が目を細める。耳だ。デジャブ。でも今度は。
「猫?」
俺の頭を見やった弟が同じように生えた耳を撫でた。痒い。その手が頬のあたりに近づくと、そちらは引っ張られるような、つっぱるような独特の感触。
「兄さん、ひげ」
そう言う弟の顔にも。明らかにびよんと長い猫のひげ。虎の時のことが思い出されて二人舌を出し合ってみたけどそこは変化がなかった。呪いは終わってなかったのか。神とやらの言葉を思い返す。そういえば十三個とか言ったような。ご丁寧に十二支になり損なった猫の分まであるのか。
ごろん、と重いものが転がる音がして、鏡に字が浮かぶ。
ふたりでぜっちょう
そうして今に至る。足元のものはつまり、猫しっぽのアナルプラグだ。それが二つ。
「これって」
「二輪挿しかな」
「いやぜってぇ違うだろお前も挿れるんだよ!」
従うしか選択肢がないことは既にわかっている。呪いを解くためだ。今度こそ最後の。
珍しく躊躇っている弟の横でデニムも下着も潔く下ろした。冷や汗で湿ったパンツはくるりと丸まった。どうせ性悪な神様しか見ていないんだ、やるに限る。別に弟だって後ろができないわけじゃない。だけどなんていうか、切り替えが必要なのかもしれない。
俺は常に財布にコンドームを入れておくような人生なので、常備のそれを指にはめて、パッケージの中にヒタヒタと入っているジェルを手のひらに。四つん這いになって適当に後孔を解した。弟の服を引っ張って、
「兄ちゃんがお手本してやるから」
見てて、と尻を弟の方に向ける。ちょっと恥ずかしい気もしたけど、自分の方がやり慣れていることを弟に手ほどきしてやれる、という謎の矜持が勝った。まったく、これじゃちっとも懲りてないな。
指でほどいたところにしっぽをひとつ、ゆっくり挿入する。たいして太さも長さもないそれは、冷たさだけが違和感だったが、よく躾けられた俺の穴はお上品に口を開け、ちゅるんと咥えてしまった。全然物足りない質量だけど、ディルドとは違うからこんなもんだろう。息を吐いて、馴染ませるように何度か尻を締めたり、緩めたりして動かしてみる。生き物じゃないからしっぽが可愛く立ったりはしないけど、それでもフラフラと揺れるのが見えると変な気分になった。
「んっ、んぅ……ちゃんと入ってる?」
「……うん」
いつもならノってくる弟は複雑な顔だ。尻を下に向けても抜けないことを確認し、もうひとつを拾う。
「お前の番。脱がすよ?」
きっと自分ではしてくれないだろうから、下から、お願いするときの角度で宣告した。しかめ面が治らないけどまぁ殴られないから、いいよってことだ。ベルトをはずし、下半身を露出する。新しいゴムの封を切って指に着ける。座らせた弟の足を開いて、中心でどうしようか迷ってる風な陰茎をまず口に含んだ。まだ柔らかいうちに唾液で濡らして啜るのが実は好きだ。俺の舌で、唇で、頬の粘膜で育っていって、入りきらなくなるくらいまで膨らむ過程がたまらない。じゅるじゅると下品な音を立てて、愛しい俺の暴君に興奮を与える。どくどくと血管の中を流れる血が勢いを増したのが舌に伝わって、思わず尻を振ってしまう。俺の欲しがりな穴がこんな小さな尾で足りるわけがない。
夢中になって跨ってしまいたいのを我慢して、唇で挟んだものの根元よりもっと下、蟻の門渡りの先へ指を潜ませた。亀頭をじゅ、じゅ、と吸いながら窄まりをくぐる。きつい。だからプラグがこの大きさなのか。変に納得して、少しでも楽にできるようにと指を使う。弟も脱力するほうが負担が少ないことをわかっているから、少しずつ息を吐いている。少し緩んだら奥へ、力が入ったら止まって。慎重に潜る指に合わせて、雁首から幹へとゆっくり口内に誘い入れる。内壁を擦るのとまったく同じ速度で竿を吸うと弟がびくびく震えた。
「うっ、ん、ふうっ……」
気持ちよさそう。いいな、俺もしてほしい。硬く育ったものが口の中で熱い。男根で得た快感が直腸のうねりになって、挿れた指を締め付けてくる。弟の身体が素直に気持ちいいって反応してくれてる、俺は涎が止まらない。喉から鼻に抜ける雄臭さに胸がぎゅっと痛くなって、思わず口を離した。後ろの指はそのまま、弟の背を畳につけて、顔の上に跨った
「俺もして」
しっぽのフサフサで顔をくすぐるようにしてやると、ようやく少し笑ってくれた。
「俺ばっかり気持ちよくなってごめんね兄さん」
「うん、うん、はやく」
「ふたりでぜっちょう、だったもんね」
すでに限界パンパンまで腫れている俺の屹立に弟がふうと息をかける。あん、と声が出て派手にヒップが揺れた。垂れそうな先走りを吸ってもらうとそれだけでイってしまいそうになる。
「やばい、俺すぐイきそう」
「まだだよ。同時なんでしょ」
そういって弟が成長しきったモノを頬にごりごり擦りつけてきた。いつも冷たい言葉ばかり吐く口から出る台詞が今は甘い。なにこれ俺たち相思相愛かも……とか勝手に脳内で盛り上がってたら、根元をぐうと握られた。
「ひあっ、あ、あ、はなしてっ」
「だめ。ほら早くして」
弟は優しい言葉を使う時ほど意地が悪い。すぐにでも射精できそうなところをせき止められて、張り詰めた逸物で顔をばちんとはたかれた。腰に電気が走る。情けなく伸び切った声が出て、もう一発ビンタされた。やばい、これを続けられたら先に空イキしてしまう。必死で口を開いて再び弟のを食む。今度は深く。先っぽで上顎をつつくと、喉奥にぞわぞわと性感が生まれる。尻の奥を突いてもらえない分、飲み込むように奥まで引き込んで締めた。でもこれだけでは駄目だ。含ませたままにしていた指を弟の尻から抜いてプラグを宛てがう。はじめよりは柔らかくなっている。控えめにひくついた穴へ、お揃いのものを。傷をつけないようにゆっくり、と押し込んでいると弟が俺のしっぽをぐい、と動かした。
「んんんんーっ」
左右に振れない頭を少しだけでも揺らして制止する。それなのに弟は腰を浮かせて口蓋の奥を小さく突いてきた。口の中がぐちゃぐちゃとかき回される。震える手で何とかしっぽを取り付ける。視界がぶれ、指がすべって、角度が変わった拍子に前立腺に当たったらしい。弟の股間ががくんと持ち上がって、先っぽがさらに喉の深くに沈んだ。もう、むり。今日は下の口になりきってしまっている口腔内で激しく出し入れされて、視界がちかちか光る。お返しとばかりに、同じ性感帯を玩具で抉られて足先がぎゅっと丸まった。噴き出せない劣情が逆流して胎が熱い。くる。同時に絶頂しなくてはと、弟が反応したところへ無我夢中でプラグを挿しながら、性器になった咽頭と窄めた唇で弟の剛直を絞った。
「んんっ、ンう、んんんんんっ」
「っ、ふぅっ……っ」
ぶくりと膨れたものから熱が迸って喉を灼く。ギリギリまでこらえていた下腹が痙攣して、小さすぎると思っていた無機質の形を断続的に引き絞った。
結果からいうと、うまくいったらしい。無事耳もひげもなくなった俺たちは、互いの呼吸を聞きながら安堵した。初日にあれだけ騒ぎ立てた神様はもう静かで、残ったのは熱が収まらない俺の身体だけ。お題はクリアしたものの、胎の奥が疼いて仕方ない。だけど先に服を整えた弟が、光らなくなった鏡を眺めながら「でも家に帰ってからね」と言ったことには、大いに同意した。神社で致すのはダメだ、うん。
自業自得とはいえ、不運な年明けだった。連日の変わり種セックス。この先普通ので満足できるんだろうか。新たな悩みの種を一人飲み込みながら、慣れたベッドのある家へと二人足を向けた。今はまず、持て余したこの下半身をどうにかしてもらおう。そうやって、今年も乱れた兄弟をやっていく。弟よ、お兄ちゃんのはしたない尻をよろしく。あけまして、おめでとう。
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