さっきまで聞こえていた音が急に止まると、静けさが妙に長く感じる。
兄さんも俺も息を整えるための呼吸音を小さく発するだけ。
一瞬視界が揺れたがなんとか踏みとどまって重心を取る。兄さんもしゃがんではいたが、倒れてはいなかった。
沈黙を破ったのは、兄さんが血を含んだ痰を吐き出す音。
「あー。きつかった。」
「本気でやれって言った。」
「言ったよ。」
いてて、とさっき蹴りを入れた腹を押さえ、苦無を収めながら兄さんが立ち上がる。
少し寂しそうに眉を下げて笑って、いつもみたいに俺の頭に手を乗せた。
「お前なら大丈夫だよ。」
くしゃりとかきまぜられたけど、なんでそんな顔をするのかはわからない。
身体流しに行くぞ、と兄さんは先を行き始めた。
明日が本番だからと、稽古は手加減されたことはわかっている。
ちりと胸のあたりに広がりかけたもののことは無視して、後を追いかけた。
明日俺は初めてひとりで任務に出る。
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