コビロ

何もかもが精錬されて心地よい、と思うほどには。いつの間にか抜け出せないところまで沈んで、なのに嫌な感じはない。他人の体液なぞと普段なら思うのに、さっきからずっと唾液を飲んでいる。若くて瑞々しい、性的な匂いの濃い。
「だい、じょうぶですか、ローさん」
「っう、はぁっ……気にするな、問題ねぇよ」
ぼたりと瞼の側に落ちる大粒の汗。桃色の髪の先に溜まる雫。頬骨を伝って耳へ滑り落ちるのをもったいないと。
真摯な眼差しは、ずっとローの乱れる様を焼き付けている。一コマも見落とさないよう。さらされている、すべて。男より年季の入った皮膚も、覗く歯茎も。鍛えていた体は誰の目に触れても申し分ないつもりでいたが、目の前の艶やかさに圧倒された。いつまでも蛹のままだと思っていたものが、とっくに殻を脱ぎ捨てて、おとなの姿で見下ろしている。
恥ずかしいと思うより、曲げられた関節の痛みが勝る。眉間の皺が取れそうにない。以前より大きく、たくましく育ったが目線はまだローを超えない海兵との挿入は自然、ローの体を丸めなければならなかった。
縮められた内臓をさらに押し上げられて、気道が詰まって、必死で息を継ぐところをまた塞がれる。いつもローからする方が多いのに、そんなにキスをするのが好きだったとはこうなってから知ったこと。
切れ間に呼ばれる名前、堪らない。繰り返し、何度も。答えられない、吸えなくて。
「ま、っ……っ、て、まっ」
小さな口をめいっぱい開いて啜られる。舌が、蛇のようにのたくるのを、巻いて絡めて、宥められない。誰しもが男に抱く爽やかな心象から程遠い、むき出しの強欲を、一身に受け止めるしかなかった。
髪をかき乱しても角度を変えられ、新たな蜜が垂らされる。痺れる舌の根を通って、喉へ、食道へ、やがて混じって一部になる。こちらが教えてやらねばと、そういうあれこれは暴れるつま先がもう昔に蹴とばしてしまった。
声にもできない発熱は、腹の中で唸りを上げる。薄く開いた目で様子を伺われ、見聞色など使わなくても察せられて、奥深く、何度も、侵入を許す。粘膜と粘膜がひたりとついて、擦れ、それは言いようのない焦りを生んだ。
「ん、ふっ……う、っ、ふ、んん、っ、ああ!」
捩じるように腰を押し付けるときだけ口を離すのは、このごろは確信犯なのだと思う。酸素を求めて開いた口はもう閉じられない。だらしなく、溢れる声を、楽しまれている。
「くそ、あっ、あ、うあ、とじ、とじろ、もっかい」
金魚のようにパクパクと、顔を突き出してももう与えられない。先ほどより起こした姿勢は動きやすく、かつて中将を追いかけて鍛錬した肢体が、力強く前後に律動する。翻弄されて、シーツを握るか、男の腕に爪を立てるか。
「ローさん、すご、い、ですっ」
「だま、れっ、んあぁ、よこせよ、あ、ばかっ」
「あとで、あとまた、あげますから」
「う、んぅ、ふっ、あぁ、っあ!」
広く遠く、有象無象の機微を詳細に拾い集めることができるくせ、この時ばかりはローの何をも聞き入れてくれないのだ。今、キスしてほしいのに。ただそれも、自分が許し続けてきたことが、男をそうさせたと自負している。
ああ、いつの間にか、誰も知らない聞かん坊。

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